« 総合文芸同人誌「岩漿」(伊東市) | トップページ | 「私人」88号の到着報告と同人誌の成り立ちを思う=外狩雅巳 »

2016年3月21日 (月)

文芸同人誌「文芸中部」101号(愛知県)

【評論「杉浦明平の立ち位置と北川朱美の詩人論集」三田村博史】
 記録文学作家の杉浦明平(1913年6月9日~2001年3月14日)については、野間宏に関連した人物ぐらいにしか、知らない。ただ、家業が東京湾でのノリソダ漁民であったので、多少の関心はあった。今回本号の附録のような形での100号・101号抜き刷り冊子「杉浦明平『敗戦前後の日記』を読む」(三田村博史)も合わせて読んだ。戦後のB29の空襲の様子など、自分は3歳ほどであったが、防空壕の水浸しの話など、妙に東京での被災の記憶と重なった。とにかく、緊迫感が文章ににじみ出ている。これは題材が、敗戦記録であるからであるから、とばかり言えないように思う。書き手のセンスが出ている。おそらく三田村氏も事実に立脚して、それ以外は書いていないのに、よくも悪くも、当時の社会制度、日本的慣習の特徴が描出されていることに注目したのであろう。受け取り方はさまざまであろうが、みんながそうだったということへの同調精神の結果として、現代にもまだ根を張っている国民の官僚支配精神に対する無批判傾向が、言わないながらも敗戦前夜と敗戦後の記録に描かれていると感じた。文章の強さのなかにそれがある。
帝国主義、軍国主義はよくないとはいいながら、敗戦国家としての自由は、支配される国の歴史と、支配国に従属することになる日本の立ち位置をも考えさせられた。なぜか70年前の世情の様子が、現在の世相精神にまだ根強く残っていることが見える。
発行所=愛知県東海市加木屋町泡池11-318、三田村方。文芸中部の会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

|

« 総合文芸同人誌「岩漿」(伊東市) | トップページ | 「私人」88号の到着報告と同人誌の成り立ちを思う=外狩雅巳 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 総合文芸同人誌「岩漿」(伊東市) | トップページ | 「私人」88号の到着報告と同人誌の成り立ちを思う=外狩雅巳 »