著者メッセージ: 彩瀬まるさん 『やがて海へと届く』
このたび、私の二つ目の長編小説が完成いたしました。震災発生日の深夜、吸い込まれそうなくらいに黒く、深い、明かりが一つもなくなった町を高台から見下ろして以来、私の中にはいつも、冷たい石のような不信が残っていました。
家族になにかを聞かれるたびに「真っ暗だった」と言いました。目に映った景色も、積み上げてきた人生も、それまで漠然と抱いていた、自分がこの世から歓迎されているという期待も、すべてが「真っ暗でなにもない」と感
じました。
真っ暗のままもとの暮らしに戻り、一人の大人として生きていくのは辛かった。なので、私には私を回復するための物語が必要でした。
この物語には死者が出てきますが、あの震災で亡くなった方々を悼んだりその思いを空想したりと、そういう意図で書いたものではありません。
私が「真っ暗」に人生を乗っ取られず、回復していくために必要なものはなんだろうと、それだけを考えて書いたお話です。
この物語が、ある一つの回復の過程として、同じような暗闇に悩む方々をほんの少しでもお手伝いできたなら、とても嬉しいです。
生きて帰って以来、これだけはどうしても伝えなければいけない、とずっと思っていたことを一生懸命書きました。どうか受け取って頂けますよう、お願い申し上げます。 (彩瀬まる)<講談社『BOOK倶楽部メール』 2016年2月1日号より>
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