文芸同人誌「相模文芸」31号(相模原市)=外狩雅巳
【「大泉黒石著『おらんださん』の中の『ジャン・セニウス派の僧をめぐって』」中村浩巳】
原稿用紙440枚を六回に渡って連載した最終回です。彼の渾身の力作が終了しました。
太平洋戦争直前に出版された大泉作品は反戦小説かと問いながら進める中村史観論でしょう。
初回冒頭に、聖書のイザヤ書引用を置きその設問を最後で解き明かす周到な構成です。
大泉の小説作品中の18世紀日本の海防論を軸に、オランダ近代史に入り込み縦横に論を展開します。
感化された石原莞爾の満州論や、儒教の人間観を駆使し、禅問答的な持論開陳が面白く読めました。
中村氏は法政大学出版局より「ファランの痙攣派」という18世紀フランス宗教紹介書を出しています。
大学での教鞭と研究の成果を存分に書ききった会心の作品だと思います。
大泉の小説「おらんださん」を非戦作品と読み込んで、結論に持ち込む論法は寄り道が多く、彼の講義態度を想像しました。
【「日本海海戦観戦記」木内是壽】
木内氏は数年間に渡り「文豪の遺言」や「梅谷庄吉の辛亥革命」などの長編連載を行って来ました。
今回は短い作品ですがアルゼンチンとの関係を持ち出した着眼が良いと思いました。
親日国としての歴史を紹介しています。軍艦を譲渡する仲です。その軍艦が日本海海戦を戦います。
海戦の記述は多くの歴史書等と同じで無難に筆を進めています。前後にアルゼンチンの事を書いて締めています。
「日進」「春日」と名付けられた譲渡軍艦は装甲巡洋艦という種類です。その活躍は書かれてはいません。
簡単な戦闘推移と戦後処理等が短く紹介されています。明治大日本帝国が世界列強になる契機の戦いです。
歴史や戦史よりも二つの国の友好関係を主題にしています。これがこの作品の特徴でしょう。
両軍の主力である多数の戦艦に比して、装甲巡洋艦の特性を少し紹介して欲しかったとおもいます。
そのことで二隻の軍艦の重要性とアルゼンチンの好意が見えてくる書き方もあると思います。
「相模文芸」は、 30号の節目を超え40号二十周年へ向けて順調に進行しています。近年は連続して大作を掲載する事で会を支える中興の中心者の二人がいます。
中村浩巳氏と木内是壽氏です。今回も健筆を振るって存在感を示しています。
紹介者・町田文芸交流会事務局長《外狩雅巳のひろば》
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