創作同人誌「R&W」第19号(愛知県)
本誌は、短編小説の読み方、書き方の創作教室の作品集だそうだが、毎号ごとの多彩さが増している。創作同人誌というのがたしかに合っている。
【「山岳へ…」渡辺勝彦】
妻を亡くした、高齢者の「わたし」が、30年前に共に山登りをした思い出をたどるため、山行きをする。その途中で、失恋を経験した若い女性と同行することになる。その女性の身の上話と聞きながら、妻との思い出をたどっていく。なんとなく軽く読ませられながら、自然な抒情を感じさせる。手記とは異なる、創作的な自然さが、文芸味となっている。
【「愚弄は今」松蓉】
「グローは今」というフレーズを活かし、91歳の高齢者の独白というかたちで、その情念の動きと、現代の世相への感受性を語る。長いが、ユニークな表現の仕方に工夫があり、生活日誌とは距離をもった、底に孤独な味わいをもつ文芸作品。
【「滲話窮題」早海徒雪】
日常のなかに変なことが起きる超常現象をからませたショート・ショートが3話。「昔の彼氏が訪れた時の話」「彼女の浮気を知った時の話」「親友との絆を確かめあった時の話」がある。文学フリーマーケットで若者たちが冊子にして売っているライトノベルの流れ的作風で、種に文学精神のようなものがありそうだが、どこに向かうのか。
【「素人ロケンロール」亀山誄】
資産家で会社の社長がプレスリーに取りつかれて、社員や周囲の迷惑を顧みず自己中心主義を貫く話。ジコチュウ人間を具体的にキャラクター化したところが面白く読める。
【「九相図」盛岡篤史】
人間が死んだあとは、どのような段階を経るか、を九段階にわけてリアルの描いた九相図という秘画があるらしい。宗教的色彩を帯びたホラーである。死を題材にしているので、書き方次第では純文学的にもなるのかも知れないが、ここでは単純エンタメ小説的な方向で、形式的完成度は高い。
発行所=〒480-1147愛知県長久手市市が洞1丁目303、渡辺方。「R&W」編集室。
紹介者「詩人回廊」北一郎。
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