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2015年12月26日 (土)

文芸同人誌「弦」第98号(名古屋市)

【「ゆくえ」野々山美香】
 これは、結婚して新しい生活に入った娘の境遇が、あまりにも不幸に感じて心を痛める両親の姿を描いたものである。人間の肉親関係を端的に表現している。嫁にやった娘の亭主は、浪費家で、自分で家賃を払えなくなると、妻の実家に住んで、家賃の節約ができると、同居を求める。娘は妊娠している。娘可愛さで、それを親が受け入れると、娘の亭主は、会社の同僚を読んで麻雀三昧。とにかく社会人としての、矜持がないクズ男だが、娘は夫を愛しているという。
 かつての「みのもんた」のテレビバラエティの人生相談にありそうな話である。しかも、人間の家族構造の原理からしても普遍性がある。作品では、父親が娘の亭主を殺してやろうと、刃物とロープを用意する。そして、娘の亭主を殺す夢を見るが、目が覚めて、その凶器を探すが見つからない。そのまま時が経つところで話を終わらせる。いかにも同人雑誌でなければ読めない素朴な味わいがある。現代は、子どもが成人したら親は親、子どもは子供と、別人格がはっきりしているものだが、日本人の家族意識の伝統がまだ健在な世代もあるということを示している。
【「沙也可」白井康】
 韓国人名の家族の祖先が日本人だというので、そのルーツを秀吉の挑戦征伐の時代からたどる話と、若者の恋愛交際の進みぶりを描く。半分ずつ成功している感じ。
【「カイロプラクティック」長沼宏之】
 日本人のサラリーマン生活のいじましさと鬱屈した側面を、丁寧に描く。読むのに長いの気になるが、好きに書けるのが同人誌だから、それもいいのでは。
【「加齢臭」空田広志】
 男の高齢者の性的な欲望について書いたもの。それを加齢臭と同じ嫌悪すべきものと描く。いまはやりの消臭剤の宣伝になるような、普通感覚で、そうですか、というしかない。リアルさを超えた真実味を発見する努力をみせれば文学になるが、これは書きかけで終わってそれがない。
発行所=〒名古屋市守山区小幡中三丁目4-27、中村方「弦の会」
紹介者=「詩人回廊」北 一郎

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