« 文芸同人誌評「週刊読書人」(15年11月27日)白川正芳氏 | トップページ | 同人誌「相模文芸」の合評会と忘年会から=外狩雅巳 »

2015年12月17日 (木)

文芸同人誌「アピ」2015年6号(茨城県)

【「思い出づくり」友修二】
 瀬戸内海の近くに住む山田亮は、妻と子どもと円満な家庭をもっている。仕事は自治体に情報機器を納入する営業をしている。会社では、やり手の同僚がいて、彼に対抗できず、あまりぱっとしない存在である。ちょっとしたことで、評価が上がったり落ちたりする。山田はお役所との立ち回り下手で、ある。ライバルの社員は自腹を切って役人にお歳暮などを送っているという。
 そんな同僚たちの出世意欲とは別に、山田は釣りを趣味にしている。そこに役人の広野という釣り好きの男がいて、職場の規則で禁止されている釣りボート遊びに山田が便宜をはかってやる。そのとき、ひろみという若い女性が同行することになり、心を浮き立たせるが、結局、芯が真面目な山田は浮気をしないで、何事もなくほのかな恋心を終わらす。そして(出世、肩書き、お世辞、嘘……)をどれだけ捨てられるかわからないが、それを捨てた分だけ家族との大切な思い出が蓄えられていくのだーーと、考える。
 毎日のサラリーマン生活の中で、小さな世界でおだやかに暮らすことが、幸福の原点であるという思想が、読みやすい私小説的手法のなかに盛り込まれている。文学的には古典的で平凡だが、同人誌作品ならではの癒しの創作になっている。
【特別寄稿エッセイ「いつかえる緑花咲くふるさとへ(小高区へ)」吉岡千善】
 3・11の東日本大震災と原発事故で、避難した福島県の牧畜業の話である。ほとんどの牛は殺処分され、何頭かは逃げ延びて野生かしたのであろうか。なかに「これからの私達は放射能との生活に覚悟をしなければならない。今のおれは大学の研究牛を管理しながら牛との触れ合いもあり、日々そんなことに感謝している」とある。そして先の見えないなかで、行政のつくる未来に期待するしかないと語る。末尾に(本作品は、被災牛と歩んだ700日―東日本大震災におけるー畜産の農家の苦悩―特定非営利活動法人懸の森みどりファーム発行より転載したものです)とある。このような社会的テーマ性を持った地域誌であるのが、本誌の特徴であろう。
発行所=〒309-1722茨城県笠間市平町1884-190、田中方。文学を愛する会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

|

« 文芸同人誌評「週刊読書人」(15年11月27日)白川正芳氏 | トップページ | 同人誌「相模文芸」の合評会と忘年会から=外狩雅巳 »

コメント

伊藤氏の文芸同人誌評、アピを主宰する私としても、また、アピ会員にとっても大きな励みになっています。今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: 田中 修 | 2015年12月17日 (木) 19時21分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 文芸同人誌評「週刊読書人」(15年11月27日)白川正芳氏 | トップページ | 同人誌「相模文芸」の合評会と忘年会から=外狩雅巳 »