文芸時評1月「頭の体操」に堪える文学がほとんどない 石原千秋教授
綿矢りさ「手のひらの京(みやこ)」(新潮)は、京都に住む凛、綾香、羽依の3姉妹の、結婚や就職をめぐるあれこれを書いたもの。京都が主役で、そこに3姉妹を浮かべてみた現代版『細雪』の趣だが、300枚ではちょっとした思いつきを形にしただけだ。こういう趣向ならば、いかにもいま風に、3姉妹の心の小さな動きなどいちいち書き込まずに、京都の街を前面に打ち出して千枚書いてほしいものだ。率直に言って、本気度がまったく足りない。「呉服問屋の店先では二千円や三千円の激安浴衣が売っていて、たくさんの女性が群がっている」は「激安浴衣を」の方が自然で上品ではないだろうか。こうした文章の調子も京都とうまくマッチしていない。
産経新聞12月27日《文芸時評1月号 オックスブリッジ流「頭の体操」に堪える文学がほとんどない 早稲田大学教授・石原千秋》
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