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2015年11月18日 (水)

同人誌評「図書新聞」(2015年11月7日)志村有弘 氏

青春の悔いと文学仲間の苛烈な人生を綴る立花健の現代小説(「九州文學」)――幕末の画家を描く柴田宗徳の歴史小説(「流氷群」)。戦争反対を叫ぶ詩
 対象作品=立花健の「川は流れる」(九州文學第554号)/大塚古史郎の「大夕張」(青の時代第42集)/東一穂の「孤高の艦―最後の突撃―」(照葉樹第二期第八号)/小川悦子の「『私だけは』と思っていたのに―ある詐欺未遂事件ドキュメント―」(新現実第125号)/新谷康陽の実録「我が家で起きた「オレオレ詐欺未遂事件」」(播火第96号)/川瀬健一の「亡き友を偲んで」(Pegada第16号)/柴田宗徳の「画狂・為恭」(流氷群第58号)/豊岡靖子の「江戸深川 呉服店岩田屋の女房」(あべの文学第21号)/詩誌「コールサック」(第83号)主宰者鈴木比佐雄は「不戦の若者たち」と題する詩で、「九条こわすな」「戦争法案反対」を叫ぶ高校生たちの姿を示し、宗左近が「戦争中でも人を殺したくなくて/身体を壊し精神の異常を訴えて徴兵を避けた」と記し、鈴木の父は中国戦線から帰還したのちアル中となり死んでいったことを綴る。鈴木の父も一人の戦争犠牲者であった。
 短歌では、西尾清子の「花冷えの朝」(中部ペん第22号)と題する「思い出を繋ぎて生命の糧とする老父は一言「今日過ぎた」と」が心に染みる。
 研究領域では、「吉村昭研究」が31号を重ね、同誌の別冊ともいえる「吉村昭資料集2 著作年表・初出一覧」(桑原文明編)が吉村の全仕事を知り得る労作。「甲蟲派」第5号に石上玄一郎の未発表講演「図書館と作家―柴の虫の繰り言」が掲載されていて貴重。「近代文学資料研究」(同研究会発行)が創刊され、加藤美奈子の倉敷市蔵「薄田泣菫文庫」の与謝野寛・晶子・山川登美子の泣菫宛の書簡等を影印で示し、その不可解さを考察する論、塩谷昌弘の鈴木彦次郎筆金田一光追慕碑をめぐる論など、示唆に富む論考が並ぶ。
 追悼号として、「象」第82
号が藤森節子、「船団」第106号が杉本秀太郎、「タクラマカン」第53号が岡見裕輔、「花」第64号が佐々木登美子、「播火」第96号が一畑耕(曽我部博)・後藤茂(含訃報)。御冥福をお祈りしたい。
《参照:図書新聞(志村有弘相模女子大学名誉教授) 2015年11月07日

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コメント

図書新聞の志村有弘さんは良く読んでいらっしゃいますね。いつも感服してます。短い言葉で適切に日費用されているのには頭が下がります。

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2015年11月18日 (水) 13時45分

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