著者メッセージ: 矢野隆さん 『我が名は秀秋』
ヤンキーの中にも、良いヤツがいる……。思えばそれが、私が“レッテル”という物に疑問を持ち始めた端緒であるような気がする。世の中で不良と呼ばれている者の中には、根が純粋で曲がった事が嫌いだからこそ、思春期に大人の現実に触れ、疑問や怒りを感じ、それを素直に表出してしまう故にレッテルを貼られたヤツ等も多い。真面目なヤツより、真正面から大人たちや仲間と向き合うからこそ、問題も起こすし、不良とも呼ばれる。でも実際に接してみると、結構人情に篤く義理堅いヤツが多いのも事実だ。ヤンキーだからと言って全てが悪いヤツだという訳 ではない。
なにが言いたいかというと、レッテルほどあてにならない物はないのだ。安易な言葉で誰かを一定のイメージに固着させるという行為に他ならない。だから私は大嫌いである。
今回、日本史の中でも特に悪辣なレッテルを貼られた存在にスポットを当てて、小説を書いた。小早川秀秋である。
太閤秀吉の親戚であったが故に、幼少の頃から甘やかされて育ち、愚鈍であるが故に、関ヶ原の戦いで重臣たちの勧めに従い三成を裏切って家康に付いた稀代の裏切り者……。愚か、優柔不断、未熟などなど。
秀秋のイメージは悪しきレッテルのオンパレードだ。こうなると私のレッテル嫌いのアンテナが、ビビビと震えだす。秀秋は優秀だ!
最初は決めつけのみで企画をスタートさせたのだが、調べれば調べるほど「別に優秀でも筋は通るじゃないか!」という結論に至った。愚か者だと仮定した方が辻褄が合わないような事実もある(関ヶ原の戦いの前日の行動なのだが、気になる方は是非作品をチェック!)
とにかく秀秋のレッテルを引っぺがしたいという一念で書いた作品である。愚か者の中にも、切れるヤツはいる……。(矢野隆)
(講談社『BOOK倶楽部メール』 2015年10月1日号より)
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