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2015年10月 8日 (木)

文芸月評10月(読売新聞)他者を拒みつつ求める

  加藤秀行さん(32)の文学界新人賞受賞第1作「シェア」(文学界)も、目新しい題材の中に人物が生きていた。ベンチャー企業の社長と離婚した女性は、海外発のウェブサービスを使い、法律の境界を突くように余った高層マンションの部屋を旅行者に貸す。
 怪しげなホテル業を一緒に始めた国費留学生のベトナム人女性は、少し類型的にも映るが、前向きでかわいらしい。五輪に向けて高層住宅の建設が続く東京には、ミニバブルの空気も漂う。その風に踊らず、軽やかに吹かれる若い世代の像が縁取られている。
 現代詩花椿賞を受けた詩人でもある最果さいはてタヒさん(29)の「死ぬほど未満の17歳」(すばる)は、生と死の実感が持てない少年少女のデジタルな世界を刻む。谷崎由依さん(37)の「幼なじみ」(群像)は、事実婚から4年になる女性の話。奇妙な小学校の同級生の出現により、未来への不安をあらわに意識させられる。方言の会話に血が通う。
 一方、大ベテランの筒井康隆さん(81)が発表した「モナドの領域」(新潮)は、法外な器の長編だ。ノーベル賞作家、川端康成の短編「片腕」を本歌取りしたような、女性の腕そっくりのパンを焼く美大生の挿話から始まり、美大教授に取りつく「GOD」と名乗る者が現代に降り立つ。
 話を聞こうと人々が押し寄せ、裁判は開かれ、テレビ番組も放送される。ドタバタ劇と哲学の蘊蓄うんちくを織り交ぜたGODの弁舌に引き込まれる。
 モナド(単子)とは、ドイツの哲学者、ライプニッツの唱えた概念だ。世界は、個々のモナドの集まりで構成されるとする。翻って小説が「世界」の写し絵とするなら、登場人物や場面など各々おのおのの「モナド」を言葉で形作り、ある調和に導く作家は、「GOD」に似た存在なのかもしれない。『創作の極意と掟おきて』で昨年、自らが体得した小説技法を説いた著者は、その実践とも言える本作を通し、作家の仕事を祝福している。
 最後に、いしいしんじさん(49)の連載「よはひ」(すばる2013年5月号~)が、完結した。お話好きの父親に育てられている小さな「ピッピ」が、5歳になるまでの物語だ。お話と現実の世界に境がなかった子供は、次第に言葉を覚え、二つの領域にはっきりとした区分が出来る。その言語以前の薄曇りの世界を、作家の夢の絵の具で描き連ねた。(文化部 待田晋哉)
文芸月評(読売新聞)他者を拒みつつ求める

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