期待はずれだった筒井康隆「モナドの領域」(新潮)石原千秋氏
筒井康隆「モナドの領域」(新潮)は期待はずれだった。作中に作品名が出てくるように、『カラマーゾフの兄弟』の向こうを張って、わざとツボを外しながら神学論争を行うのだが、それが面白くないのだから困ったものだ。実は、やはり地の文で引っかかった一節がある。「この上品な六十七歳の教授は四年前夫人に先立たれて以来ずっと独身生活を続けていて」というところだ。ここには、まるで〈妻に先立たれた六十七歳の上品な大学教授であれば、身の回りの世話をする女性とすぐにでも再婚するのが当たり前〉というかのような感性が透けて見える。まるで戦前の読者に向けて書いているかのようだ。この語り手もいかにも古い感性の持ち主だ。それとも古いテイストの小説にしたかったのだろうか。小説の神は細部に宿るものだ。
先月の「時評」で、『高慢と偏見』のエリザベスと結婚するのはビングリーと書きましたが、もちろん正しくはダーシーです。ご指摘下さった方に感謝します。
《産経新聞:10月号 恋愛という文化の終焉 早稲田大学教授・石原千秋》
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