« 西日本文学展望「西日本新聞」2015年08月朝刊長野秀樹氏 | トップページ | 文芸同人誌評「週刊読書人」(2015年8月7日)白川正芳氏 »

2015年9月28日 (月)

文芸同人誌「孤帆」26号(横浜市)

【「デッドエンドの世界―シュウジの世界」塚田遼】
 SF小説の連載で<前回までのあらすじ>があり、--世界では男性でもない女性でもないヒジュラという生殖能力のない人間が急増していた。その結果、人類の人口は激減し、地球上の至るところが廃墟地帯と化した…などとある。
 生殖能力のないヒジュラが、なぜ増えるのか、よくわからないが、とにかく通常の人間と社会的に差別されている。不合理な状況のなかで、普通の人間の「俺」が母親に子ども作るために結婚しなさいと望まれながら、身元不明の死者の死体を片付ける仕事につく。そこの会社勤めと、人間関係は、現在のサラリーマンとあまり変わらない。
 ただ、このなかで、「俺」は、なぜ結婚しなければないらないか、と疑問を投げかける。また、上司は、「子供を作るための嫁さんとのセックスは仕事なんだよ」と、それが誰かに強制されたことであるように受け取れる言葉がある。
 それが、神の強制によるものという風に考えているなら、神の悪意の奴隷という認識をもっているということになる。海外向けに翻訳されたら、ユニークな発想と思われるのではないだろうか。話そのものは、かなり面白くよませる。書き方も巧い。ただ、国家がどうしてそうした制度を成立させたか、というような視点がないので、SF風俗小説という感じがした。
【「王子の服」奥端秀彰】
 インチキ衣装商人にだまされた王様を「王様は裸だ」と言い切ったハンス少年が国民の人気者になる。そして、「王様は裸だ」と、声を恰好よくかけるための練習をする。ところが、女友達のハンナが言うのには、王様は服装を豪奢にしているより、最大の質素さである裸を選んだのだと教えられる。面白い寓話である。
 作者は25号で、「ルストロ」という、オクト人という反日思想の民族が日本を支配して、その社会で日本人が生活するという近未来SF的作品を書いていたが、こちらのほうが皮肉が強かった。
 塚田作品、奥端作品とも、作品の出来の良し悪しを感じる前に、社会における自己意識の反映として、このような発想が出ることに興味を感じた。
 また、10号でとうやまりょうこ「新月」が印象にある。当初は、もう何年も前の漢字筆名の頃の作品では、風俗的な小説に終わっていて、その熱意が理解できずに、純文学と距離があるように感じた。しかし、最近はなかなか現代という時代性のなかに入り込んでいる。というより、現代文学が、風俗的になってきていて、作者のほうにすり寄ってきているように思えるのだ。それを先見性があるといえば、そうもいえるのであろう。
発行所=横浜市西区浜松町6-13-402、とうやま方。
紹介者=「詩人回廊」北 一郎。

|

« 西日本文学展望「西日本新聞」2015年08月朝刊長野秀樹氏 | トップページ | 文芸同人誌評「週刊読書人」(2015年8月7日)白川正芳氏 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 西日本文学展望「西日本新聞」2015年08月朝刊長野秀樹氏 | トップページ | 文芸同人誌評「週刊読書人」(2015年8月7日)白川正芳氏 »