文芸同人誌「飛行船」第17号(徳島県)2015年春季号
【「やってきた娘」斎藤澄子】
後妻に入った光子は、夫のポケットから、前妻の娘、千代の手紙をみつけ、夫が光子に隠して文通をしていたことがわかる。それから、その娘が家にやってきたという話。時代は昭和27年だという。そうした時代に関係なく、後妻と前妻娘が、夫としての男と前妻の娘が父親としての愛情の奪い合いで、バトルを繰り広げる様子が面白い。
お互いに、相手を魔女として意識する様子が軽いタッチで、微妙な心理を捌いている。それだけに深みには欠けるが、面白い素材ではある。
【「風の遠鳴り」竹内菊世】
夫を亡くして仏壇で夫に話しかける生活。そこに証券会社の男がやってきて、預けている投資信託が、大損を出しているという。とり返しますから、任してくださいという。しばらくすると、本当に損した分も取り返したと、お金をもってくる。
証券マンは、もっと儲けられると、高額な投資をすすめるので、そうする。すると、利益が投資額のわりには大きくなる。そこで、姉にも投資を勧めるが、どうせ騙されてしまうだけだ、と話にのってこない。しばらくすると、証券マンが、投資した金は失敗して全部なくなりました、といってくる。そこで主人公は、一時的に落胆の極みに陥るが、気を取り直して、仏壇の夫との対話で気を取り直す。良くあるうまい投資話の手順を長々と書いてある。投資話は怪しげだが、このような金融商売の餌食になる例は、事実多いのではないか、と感じさせるリアリティがある。心が寒くなるところのある作品だ。
【「安治川」佐滝幻太】
宇宙のロマンから世界の情勢、現在の世相と事件をからませながら、自分の人生の記憶に残る出来事や、ドストエフスキー、宮本輝などの小説に思いを寄せる。まさに心に浮かぶ出来事を丁寧に書いている。意識の流れそのままである。文芸趣味の原点を感じさせる。
【「龍ちゃんの忘れえぬ人々」(1)三木田卓郎】
四国放送テレビ・ラジオなどのニュースキャスター梅津龍太郎さん(74)=徳島市在住=から作者が聞き書きしたもの。山田洋次監督の映画祭を企画した話や「寅さん」の周辺。杉村春子、太地喜和子、加藤武などの裏話があり、今となっては貴重な資料に思える。
「飛行船」=連絡先770-0842徳島市通町2丁目12,竹内菊世.
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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