« 同人誌季評「季刊文科」66号・谷村順一氏 | トップページ | 町田文芸交流会8月30日例会報告=外狩雅巳 »

2015年8月27日 (木)

文芸同人誌「あるかいど」56号(大阪市)

【旅行記「2015ワルシャワの心臓」木村誠子】
 作曲家ショパンが好きで、ポーランドに行った話。結局、ドイツ人によるアウシュビッツ、ロシアからの侵略など、隣国の軍事力に翻弄される小国の運命の歴史を再確認する旅となったようだ。ショパンがパリで生活し故国に住むことがなかったというのは、そうかと、考えさせられた。
【「夏(オムニバス)高畠寛」
 「五月 満員列島」は、日本が夜になると海底に沈み、朝になると浮上するという設定で、俯瞰した日本人生活論を、乾いた視線で描く。じんわりとした文章で、クールジャパン的な日本自慢的世相を皮肉っている。テレビのバラエティなど、コンプレックスを意識した「日本の恥の文化」はどこに行ったのか。自慢文化の裏返しだったのかと思わせるほど。共感し面白く読んだ。「六月 水入らず」息子を失った夫婦の生活を活写しながら、しんみりとさせる。筆致の感覚に鋭さが見えて、文学的に優れている。「七月 夏の朝の事」亡き父親の登場の仕方が、自然で異界と現実の融合させる表現に優れていて、どれも面白い。オムニバスだが、全体を通して、作者の自由な精神がよく活動していて、雰囲気が一貫している。
【「桜&桃 イン・ジャパン」細見牧代】
 カナダへの移住権をすぐもらえると思っていたら、それが手続上、延期になって、とりあえず亭主を置いて、赤ん坊ともに帰国する。そんなこともあるのかと、面白く読んだ。人さまの生活事情を知ることは面白いものである。
【「ゼロの視界」山田泰成】
 かつて信用金庫の支店長をしていた父親が、退職後に認知症になる。息子の「私」は、銀行員をしている。銀行の仕事や預金者とのトラブルの様子が細かく描かれていて、興味深い。認知症の父親は、脳血栓で意識不明になり、入院となる。兄弟はいるが、どこも余裕がない。「私」父親の介添えと仕事の両方をする。疲労困憊する。この出口の感じられない状況を「ゼロの視界」としたのであろう。
 父親は先の見込みのない患者専用の病院に移り、亡くなる。銀行のトラブルを解決した「私」は支店長になる。ある程度経済的に余裕がある家庭のケースであるが、それでも、一つの介護の形として、参考になる。
【「片雲の風に誘われて」泉ふみお】
 団塊の世代の解説から、はじまる。定年退職までに、どのようなことを経験しているか、過去を伴った現在という設定で、面白く読みやすい。漠然とした題名にふさわしく、さしたることがないのだが、そこはかとない哀愁を感じさせる。
【「同じ月」善積健司】
 松江で、兄の恭が芥川龍之介と親しかったことから、弟らしい人の視点で龍之介の学生生活を描く。それなりに面白いが、文学的才能のあったらしい恭を描くのか、松江での芥川のことを書いたのか、歴史的資料から脱皮しきれていない感じ。
 他の作品も呼んだが、全部紹介していたら、ただでさえそうなのに、何をしているかわからなくなる。
発行所=〒545-0042大阪市阿倍野区丸山通2-4-10-203、高畠方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

|

« 同人誌季評「季刊文科」66号・谷村順一氏 | トップページ | 町田文芸交流会8月30日例会報告=外狩雅巳 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 同人誌季評「季刊文科」66号・谷村順一氏 | トップページ | 町田文芸交流会8月30日例会報告=外狩雅巳 »