「風恋洞」43号(秦野市)について=外狩雅巳
神奈川県秦野市の秦野文学同人会の「風恋洞」43号】は、二人の同人で84頁の文芸同人誌を八月一日付で完成させた。
収録されている規約によると1980年に会費・名称・発行等々の細部が決定されている。以後年一回以上の発行を今日まで続けて居る事に成る。現在は二人になった会員は、小野友貴枝代表の強力な意志で作品を掲載し発行を持続している事がわかる。 その意志と意欲は作品「ハッピー」にも表れている。
【「ハッピー」小野友貴枝】
悦子と美代の高齢姉妹の物語である。73才の姉、美代が独居する高円寺を訪ねる四歳年下の悦子の視点で描かれている。
痴呆症が進行する美代の生活は年下の山崎が支えている。山崎にプロポーズされたから交際中だと強がる美代の可愛さが素直に読めて好感度のある作品になっている。
夫との日常も空虚な悦子は、美代の生き方を豊かな老後生活だと満足気に描写する事でこの作品を深めている。
小野氏はシナリオとエッセイも掲載して少人数の同人誌を盛り上げていて奮闘ぶりを頼もしく読ませてもらった。
かっては盛んに活動した文芸同人会も高齢化は大きな問題で、解散した組織も多い。意欲的に作品を書き身銭を切って発行する事の困難さは当事者でなければわからないだろう。
編集後記には75才になる自分の書き続けた日記の処分での困難な事例を挙げ乍らそれでも書く執念をにじませている。
【小説「学徒動員異聞」府川昭男】
もう一人の同人は85才である。学徒動員の記憶を小説に仕立て20枚以上も掲載して同人誌としての体裁を支えている。
身銭を切ると一言でいうが毎号数十万円もかかるのである。
私の所属する【相模文芸倶楽部】は三十余名もの会員なので年二回刊行の同人誌に合計百万円近い出費を支えられるのだ。
文芸同人会で発行された同人雑誌は会員や知人に配布する他には使い道も無い。数部は新聞社等の同人雑誌評係にも送付し作品評を期待するが全国からの多数中で僅か数誌が選ばれる。
文芸同人会は数百もあるが他誌について興味を持つ処はすくない。仲間内での合評会を開きそこでの評価が全てである。
その事に着目し近隣同人会での交流を企画している。他誌の作品を読みあい感想を交わす。これで各同人会の数倍の読者を得られ深く読まれ作品を巡る討論も行われる。
参照《外狩雅巳のひろば》
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