« 「仙台文学」86号(仙台市) | トップページ | 続・自分説話解説◎六十年代後半について=外狩雅巳 »

2015年7月26日 (日)

文芸同人誌「文芸中部」99号(東海市)

【「榧の柾目の将棋盤―漂い果てつ・異聞」三田村博史】
 小栗重吉の『船長日記(ふなおさにっき)』を種本とした歴史小説である。フリー百科事典によると、「1813年(文化10年)、重吉は尾張藩の小嶋屋庄右衛門所有の船・督乗丸(約120トン)の船頭として、部下の乗組員13名と共に師崎から江戸へ出航。江戸から帰還する途中、遠州灘で暴風雨に巻き込まれ遭難。督乗丸は、太平洋を漂流。以後1815年(文化12年)に、アメリカ・サンタバーバラ付近の洋上でイギリスの商船号に救助されるまで、484日間にわたって漂流した。生存者は、重吉,、音吉、半兵衛の3名であった。生還した重吉は、新城藩(現愛知県新城市)の家老の池田寛親の聞き取りによる口述筆記にて『船長日記(ふなおさにっき)』を書き上げた。積荷の大豆をきな粉にしたり、魚を釣って飢えをしのいだこと、同乗の乗組員が壊血病や栄養失調で次々と命を落とす、救助後のアメリカにおける生活などが記録されている。鎖国下の日本における数少ない海外見聞録」とある。
 重吉たちの漂流生き残り時間は、世界最長だそうである。ここでは、生き残りのひとり音吉という男の帰国後の生活ぶりを描いている。この事件を知らなかったが、作品を読み進むうちに、それがどのようなものであったか、理解が進んだ。作者の将棋の話を柱にした工夫が光っている。それぞれ劇的なエピソードをただ書き連ねると、全体像が散漫になるところを、将棋盤の逸話を軸に、あれこれ話をひろげていくことで、『船長日記(ふなおさにっき)』への解説書的な役割を果たしていると思う。あとがきに三田村氏自身の解説がある。
【「出奔」本興寺更】
 これは時代小説のジャンル。西永という学門に熱心で、真面目な男が、突然藩を出奔してまったことで、お家取りつぶしとなる。母親にその行方不舞の真実追求を頼まれた同心役の兵吾。調べを進めているうちに、事情をしるものが、その理由を隠匿している様子。よくよく調べると、大阪の大塩平八郎に私淑し、大塩の決起に参加したものとわかる話。
 ミステリアスな構成や筆の運びがこなれていて、いわゆる癒しを求める娯楽的「時代小説」に注力し、300枚ほどのものを書けば、市場の新書スタイルで読者を獲得できるのではという感じがした。陰謀話をテーマにしていた上田秀人という作家は、売れ出すと、2~3カ月に文庫本を出すほどになっている。そこまでするか、疲れそう。と思わないこともないが、時代小説には門戸が広い。
発行所=〒477-0032愛知県東海市加木屋町泡池11‐318、三田村方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

|

« 「仙台文学」86号(仙台市) | トップページ | 続・自分説話解説◎六十年代後半について=外狩雅巳 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「仙台文学」86号(仙台市) | トップページ | 続・自分説話解説◎六十年代後半について=外狩雅巳 »