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2015年7月 8日 (水)

文芸同人誌「海」14号(大宰府市)

 本誌はどれも充実した作品ばかりで、内容の濃さに感銘を受ける。主宰者の有森信二氏の創作力と同人誌への情熱には畏敬するしかない。小説の青春ものも共感したり感じることがあるが、ここではその他の作品について触れることにする。
【「ある患者の手記 第1回―癌の一症例」赤木健介】
 本編の作者は、前号の作品「いつの日か流離いの」では、永山則夫をモデルにした小説を書いている。事実をもとに資料をひもとき、個性的な犯罪者の精神性に迫るもので、いわゆる事件の意味を問いかける問題作であった。その後、元少年Aの「絶歌」が刊行されたので、いまだに印象が強い。
 今回は、自己の病と病院との関係をリアルに、正確に伝えようとするドキュメンタリーである。私自身、15年前、前立腺がんの宣告を受け手術。そこで、退院する間際になって、尿道が腫れてふさがる事態が出る。そのため、入院が伸びた。私のアレルギー体質が原因ということで、尿道の腫れが引くまで、栓付カテーテルをつけたままで、社会生活を送った。その後、再発の懸念がでて、生検で入院。以来、再発を監視する定期健診をしている。
 ここでは、次々と病気の予兆が出た場合の病院と医師の関係に患者が振り回される不可解な実態が、詳しく書かれている。セカンドオピニオンの医師と患者の感情的なこじれの問題にも触れている。同様の経験をされた方も多いであろう。これからの人にも参考になるはず。自分は三人、四人の医師に話を聞いて、医師の機嫌など無視して、自分の判断材料にしている。ここでは入院のベッドでの腰痛対策など、野球の球が役に立つという経験が記され、その手があったかと納得。いずれにしても、文芸同人誌の現実離れした建前に沿わずに、こうした高齢者に役立つ情報提供の可能性を示している。
【「あちらこちら文学散歩」井本元義】
 これは、作者のブログにも多くあるフランス・パリの話である。自分は、外国に行ったことがないので、気分転換に井本氏のブログ文学散歩は読んでいる。どういうわけか、生活環境のレベルの低い自分であるのに、このような、高尚な世界の文学ガイドが好きである。シムノンも好きで読むし、デラコルタも好き。ノワールものもかなり読む。画家もユトリロは伝記まで読んでいる。そこに少しずれがあるが…。ここではヴェルレーヌの人生を知らされてびっくり。上田敏の訳詩にはそんな気配は微塵もないから。辻邦生に対する感情も当初はなにか、うん臭さ付きまとった感じで、同感した。とにかく、ユーゴー、ヘミングウエイ、ヴィヨンなど、あらためてパリの文学者世界の含蓄の深さを教えられる。これを読むと、パリってどんな都なの? と新しい興味が湧いてくる。良い文学ガイドだと思う。パリ生活を楽しむ作者が羨ましいと思うが、身分相応に国内の変化の激しい土地散歩もそれなりに面白いので、読むだけで、まんざらでもない満足感が得られる。
発行所=818-0101=大宰府市観世音寺1‐15‐33.松本方。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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コメント

海第14号の作品について御紹介いただき、心から感謝申し上げます。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
2015.7.8  有森信二

投稿: | 2015年7月 8日 (水) 21時26分

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