自費出版、小野寺苓さん(82)の『女の名前』が小学館文庫に
岩手県一関市に住む小野寺さんは、学生時代から小説や詩を書き続けてきた。この本は1996年、1000部で自費出版した。ただ、それが数年前に、直木賞作家の桜木紫乃さんの手に渡ったことが転機となる。文章に心打たれた桜木さんが、トークイベントなどで紹介していたことが縁で、文庫化されることになったのだ。
決して、派手な本ではない。両親にまつわる思い出や、自らの先祖のこと。漢学を学んだ父とそれを支援した実業家。不意に家を訪ねてきた女性との、ささやかな出来事をつづった「マリアはいますか」。控えめだが端正な言葉でつづられたエッセーからは、東北で戦中・戦後の時代を生き、文章を書き続けてきた女性の確かな筆力がうかがえる。
編集者からこの本を紹介されたという桜木さんは、「言葉の切り口と使い場所を間違えていない。こういう人たちが自分の本を手にとっているかもしれないと思うと、書くことをおろそかにできないという気持ちになる」と話す。
《読売新聞6月5日【記者ノート】自費出版19年後の文庫化》
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