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2015年6月11日 (木)

6月【文芸月評】静かに散る 銃後の描写/愛せない苦悩つづる佳作も

 高橋弘希さん(35)の「朝顔の日」(新潮)/南方戦線で翻弄された一兵士の命を精緻につづる「指の骨」で昨年の新潮新人賞を受け、芥川賞、三島由紀夫賞の候補となった作家の第2作だ。
  島本理生さん(32)の「夏の裁断」(文学界)/30歳前の女性作家が主人公。亡くなった祖父の家を片づけ、電子化のため大量の本の背を裁断するよう頼まれた彼女は、トラブルとなった男性編集者との出来事を回想してゆく。
 奥田亜希子さん(31)の「午前四時の肌」(すばる)/皮膚炎の2歳の娘を抱えて寝不足なのに、夫に肉体的に迫られて追い詰められる妻の胸中に切実さがある。2年間暮らした同性の恋人の記憶を絡め、恋愛や結婚、出産でも埋まらない心の空白をなぞる。
 岡田利規さん(41)の「スティッキーなムード」(新潮)/ショッピングモールに行くほか楽しみのない若い女性を主人公にしていた。現代は社会での自己実現を巡り、精神や金銭的な格差が女性にのし掛かりやすいようだ。その表れの一つとしても読めた。
 「群像」と「文学界」では新人賞が発表された。計3作の受賞作のうち、群像新人文学賞を射止めた乗代のりしろ雄介さん(28)の「十七八じゅうしちはちより」にかすかな涼感がある。何事にもいらつくように装っている女子高生の柔らかな内面を、一本調子ではない節回しで歌った。文学界新人賞の加藤秀行さん(32)の「サバイブ」は、外資系の男性エリート社員2人が一緒に住む家に転がり込む「主夫」の青年の物語。勝ち組の物の考え方や生活スタイルの記述が感興を誘う。
 板垣真任まさとさん(24)の同賞受賞第1作「声がわり」(文学界)/中学3年の校内合唱大会を題材とした。異性への興味など青臭い話をドラマチックに盛り上げないのが良い。(文化部 待田晋哉)
 丸山健二さん(71)の新刊『夢の夜から 口笛の朝まで』(左右社)/鬼が書いた作品とでも呼びたい驚くべき小説だ。山深い渓谷に架かる吊つり橋「渡らず橋」を主人公に、彼から見た春夏秋冬の橋を渡ろうとする人間たちの光景をつづる。
【文芸月評】静かに散る 銃後の描写(読売新聞2015年06月04日)

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コメント

「指の骨」は感銘うけましたが、そうですね。二作目読んでみます・・。伊藤さんもますますお元気で・・。
外狩さんから雑誌送ってきました。
「関東」で近々感想書こうと思ってます。外狩さんによろしく・・・。ヽ(´▽`)/

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2015年6月12日 (金) 19時10分

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