文芸同人誌「海」91号(いなべ市)
【追悼・間瀬昇】
1966年に本誌「海」を創刊した医師の間瀬昇氏の同人による追悼記事が充実している。なかに「海」の20年を記念して、編集部・一見幸次氏と芝豪氏による間瀬昇主宰者へのインタビュー記事が再録されている。芝氏が「このごろの作品でいえば、読んでいてもちっとも感動がない、もちろん参考にもならない、ただ時間をつぶしただけというのが多くなってきていて、昔ほど熱心に新しい作品を漁ったりしなくなったですね」という。それに対し間瀬主宰者は、「それはどういう文芸雑誌を読んでも言えますね(中略)としながら、しかし、ないことはないと石井仁、玉貫寛という人のもの、吉村昭「冷い夏、暑い夏」などもそれに近いものですが、やはり、さしせまった死に対する感じ方、見つめ方、たじろがずに書いている、というものには感動させられます。」とし、自身の体験からいえば、「書きたいと思うのは、精一杯やった時代ということで、青春時代をテーマにして、というもの。ところが書き尽くしてしまうと、無理してでも何かを書いていくしかない、という面もなきにしもあらず、です。書く人の業といったようなものがね」という箇所がある。現在でもこのような状況があるのではないか、とひとつの公理としてこれが続くのかも知れないと、感じた。
【「斗馬の叫び」国府正昭】
児童虐待で幼い命が失われていく事件は、毎年何件かが報じられている。これは、そうした事件を、新米の新聞記者が取材し、短い記事として誌面に載る過程を描く話。視点は、必ずしもその記者だけとは限らず、関係者の目を通しても語られる。社会的な問題意識が重い効果を生んでいる。
【「砂利ぶるい」宇梶紀夫】
鬼怒川物というのか、このところ地域性にこだわった作品を発表している。警察官をしていた主人公の兄が、大平洋戦争での米軍の空襲で機銃掃射を受け、死ぬ。戦後の復興で鬼怒川の砂利が盛んに掘られる。それから弟は、兄嫁と結婚することになる。かつては、よくあった出来事だが、地道に生きる人々の生活ぶりを描いて、感慨を生む。
発行所=〒511-0284三重県いなべ市大安町梅戸2321-1、遠藤方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。
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