文芸誌「群系」第34号(東京)
文芸評論が中心の同人雑誌で、今号では昭和戦後文学―日本近代の検証(4)となっている。ざっと目次をみても、対象は昭和時代文学の代表的作家の多くに及ぶ。これらの作家の作品をすべて読んだことのある人は、それほど存在しないであろう。文学に精通した尖った読者に向けたものになっている。そのなかで、杉浦信夫「弁護士の闇」については、ジャーナリズム性の視点から≪日弁連の状況追及!「弁護士の闇」杉浦信夫氏≫で記している。ただし、小説もいくつかある。
【「山口二矢」大堀敏晴】
1960年、当時の日本社会党浅沼委員長を暗殺した山口二矢。その後、少年鑑別所で自死した。その二矢の母親が、少年期の息子を回想する内容。読み手の自分は、ほとんど同年令であったため、当時は自死という行為にも関心を強く持ったものだ。これを読んでも、人間は愚行をするものだと思った当時の印象は変わらない。赤尾敏との関係も記されている。両親や兄との関係は知らなかった。自分は、革新政党や右翼などからの働きかけで内情の一部を知ることで、政治が金で動くということを感じ、資本の論理に関心を高めたことを思い出させた。本作品では、二矢が大義に死ぬことに意味を見いだし、後悔しないという供述がある。ニヒリズムであるが、自分も思春期ニヒリズムに陥った。だが、何もしないでぐずぐずしていることのメリットを見つけ出していくことで、長生きをすることになった。
【「会長ファイル2『謝罪文』小野友貴枝」】
「地域福祉センター」の会長に就任した主人公の組織改革と職員のまとめ役の気苦労というと変だが、問題解決事例がわかりやすく描かれている。設立の経緯がGHQによるものというのは、初耳で驚いた。まず興味を持たせる。自分は、まだ介護制度のない時期に、親の介護用に福祉センターからベッドや車いすを借りて済ました。作品では、市議会議員がベッドを3台も借りようとしたところ職員の応対が悪いとクレームをつけてくる。政治家の存在が、公的な施設での厄介者となる。その謝罪文を書けというので書いたが、それだけではおさまらない。その応対に悩まされ、神経を病む職員の姿。さらに、職員が倉庫の整理をしないので会長が気をやむところなど、いろいろありそうな話で面白い。お役所や公的施設での小説では、管理する側の視線から描かれたものが少ない。貴重な題材をうまく書きこなして問題提起になっている。新分野開拓の素材かも知れない。
【「落とし穴―肥前島原の大名有馬氏」柿崎一】
キリシタン宗教戦争「島原の乱」のなかで、勢力を失っていく有馬家がその決断と手際の悪さが、ほそぼそと存続を維持する話らしい。ぐずぐずすることは、場合によって、問題解決になるといことであろうか。
【「二十年後」高岡啓次郎】
幻想味の強いホラー小説。理髪店の雰囲気描写が良い。手順よく描かれていて、面白がらせる。
【「峠道」五十嵐亨】
これもホラー小説。映画のシナリオのように整然として、セオリー通りだが、丁寧に書いているので、あらかじめ予測できても怖い。霊体となった亡霊が腐敗肉の絡んだ白骨という描写に、唯物的な感じがして異色感があった。ただ、そこまでするならば、筋肉が機能せずに、顎を動かすのに不自由して、言葉が明瞭でないところまでいけば、不合理のなかの合理性がでるのではないだろうか。
編集部=136-0072江東区大島7‐28‐1‐1336、永野方、「群系」の会。
紹介者=「詩人回廊」北一郎
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コメント
群系のサンプルを以前いただいたことがあって、ずっと気になってきました。
編集部、編集者の永野さんにはお礼を申し上げるチャンスもないままです。
永野様にアクセスする方法をお知らせくださいませんか?
どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
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投稿: いしかわけんたろう | 2016年3月 7日 (月) 17時32分