『リバース』湊かなえさんが講談社初登場
湊かなえさんが講談社初登場です!
『リバース』。 湊さんから皆様へ向けて、今作のご紹介だけにとどまらず、作品の着想の得 方までも語っていただいております!
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小説推理新人賞というミステリ作品を対象とした賞でデビューしたにもかか わらず、近年はミステリから少し離れたところに位置する作品を書いてきま した。ジャンルに対するこだわりはあまり強くなく、また、書きたいテーマを書かせていただけるという恵まれた環境にいたからだと思います。
しかし、私には常に書きたいテーマがあるわけではありません。ネタ帳などもいっさい持たず、大概の場合、そろそろ新作について考えなきゃならないけど、いったい何を書けばいいんだろう……、と頭を抱えてしまいます。そんな時、編集者の方にワードを投げてもらいます。「手紙」に興味はありませ んか? 「島」を舞台にしてみませんか? 投げてもらったワードという名 の石が頭の中の池で大きな波紋となって広がると、よし、これを書いてみよ うと、波紋が物語の形へと変化していきます。
この度の新刊『リバース』の場合、この石に相当するのは、本文中のある一文でした。ずばり、○○○○ミステリ。ネタバレになるので伏せていますが、 これまでに書いたことはなく、また、あまり読んだことのないテーマです。
代表的な超有名作はあるけれど、違うアプローチの仕方があるのではないか。書けるかな? 書けたらおもしろいな。そんなふうに池いっぱいに波紋が広がり、ワクワクしてきたのだけど、じゃあ、どうすりゃいいんだ? となか なか物語の形を成してくれません。当たり前です。ミステリを読んでいて、おおっ、と叫びたくなってしまうあの瞬間を自分で考えなければならないのだから。そのため、執筆を開始するまでに、これまでの作品の時とは違う脳 の部位をたくさん使ったような気がします。
騙すほうより、騙されりゃいい。シャ乱Qの「いいわけ」の歌詞が頭の中をぐるぐると駆け巡りました。ミステリは書くよりも、読む方がおもしろい。
……いやいやそんなことはありません。おそらく根が意地悪気質なのでしょう。どうやって騙そうかと、最初は頭を悩ませていても、時折、ニヤニヤしながら書いていたはずです。どうか、一人でも多くの人を驚かせることがで
きますように。書き終えた今は、そう祈るのみです。
ネタバレ以外で、今作品の大きな特徴となるのは、主人公が男性ということでしょうか。私の作品は女性の一人称というイメージを強く持たれていると思うのですが、サイン会などで読者の方から、次は男性視点で、とリクエス トされることがよくあります。加えて、日ごろ自分が抱いている、実は男性の方が陰湿な思いを抱え込んでいるのでは? という疑問に向かい合うにはこの作品がベストではないかと思ったからです。
男の友情って美しいのか? 男同士で旅行する時ってどんな会話をするんだろう? 流行りのスイーツは食べるのか? などと思いを巡らせるだけでもとても楽しかった。男性読者に、あるある、と思っていただけるとこちらの 勝ちです。誰と勝負しているんだ?
最後に、私はコーヒーが大好きです。昔からではなく、自宅の近所にコーヒー豆の専門店ができたのと同時期に、スーパーの福引でエスプレッソマシンが当たったことから、徐々に目覚めていきました。執筆中は一時間おきに飲 んでいて、もはや私にとってはガソリンのようなものです。いつかコーヒー好きの主人公を書いてみたいと願っていました。
それを今作品に用いたのは、やはり主人公が男性だからではないかと思います。<湊かなえ>
(講談社『ミステリーの館』2015年5月号より)
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