文芸月評(読売新聞5月5日付)文化部 待田晋哉記者
(一部抜粋)円城塔さん(42)の「プロローグ」(文学界昨年5月号~)は、その変な営みにとらわれる自分を見つめた奇妙な「私小説」だ。
滝口悠生さん(32)の「ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス」(新潮)は、三十路みそじを超えた男が14年前、2001年の大学1年の夏休み、原付きバイクで東北を北上した過去を思い出す場面から描き出す。高校の美術の非常勤講師、バイト先の大学の先輩らとの失恋の回想が続く。
廣木隆一さん(61)の「彼女の人生は間違いじゃない」(文芸夏号)は原発事故後、仮設住宅に父と住む女性の話。仕事の休みのたび東京へバスで通い、風俗嬢になる女の心の空白を白いまま差し出した。
星野智幸さん(49)の「呪文」(同)は薄気味悪い小説だ。廃業が相次ぎ、ネット上の嫌がらせに悩む駅前の小さな商店街で、若手事務局長が改革に立ち上がる。ドキュメンタリー番組「情熱大陸」にでも放送されそうな話かと思いきや、街の改革はとんでもない方向へ暴走する。
《読売新聞文芸月評》2015年05月05日
| 固定リンク
コメント