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2015年3月10日 (火)

文芸同人誌「R&W」17号(愛知県)

 自分は同人誌をカバンに入れて、電車やバスの待合や車中で読むことが多い。だから雑誌が到着すると、妙にそこで読んだことのある場所が浮かんでくる。「R&W」の初期はなぜか青山1丁目のビルの喫茶店で読んだ記憶がある。小説教室で学んで、さまざまな工夫が創作姿勢に感じられたものだ。それ以来、編集者の渡辺氏や装丁は変わらないが、書き手の様子は変化している気がする。書かれたものが、娯楽物と読めるものが多いが、中にはよく判らないながら文体が面白いのもある。読んで、ああそうですか、と済ませるのが妥当な気がするが、一応感じるところを記してみた。
【「SMOKIEの薄目見聞録」茅ナオミ】
 猫が語り手の連載物だが、語りの文章が面白くて、もしかしたら純文学になるのかな、と思わせる。
【「火の煙」萩田峰旭】
 呪術が使われる古代というか、昔の話で綬延という呪術使いの不思議な話で、自在な肩の凝らない文体と出来事が一風変っているので、面白く読んだ。
【「アンロック」長月州】
 未来小説で、小型無人飛行機ドローンが、空を飛びかい人間やロボットを監視コントロールする世界。若者の男女の、シュミレーション社会に置かれた状況を描くものらしい。
 若者の意識による世界からの視点で、非常に狭い空間域を右往左往する活劇描写は、書きなれた安定感がある。アニメ風の題材を小説化したような感じ。活劇小説のなかにも、社会機構に主体性を奪われた現代の窮屈な雰囲気を反映しているように思えた。
【「事故」松本順子】
 交通事故にあって意識を失った状態の女性の独白体というスタイルで、意識の流れを描く。事故を起こしたという加害者は、同じ場所で前にも同様の事故を起こしていたということが分かるが、それが謎めいていて因果関係がはっきりわからなかった。リアルな生活意識から抜け出したお話を作ろうという意欲が感じられる。
【「『足』考―人間は考える足である」渡辺勝彦】
 エッセイなのであるが、歩く存在としての人間について考察をしている。これが本誌の他の娯楽小説より面白く、娯楽になる。
 誰もが、自分の関心事を題材にして書くのであるが、読む方にしてみると疲れた。
 小説は、他人のどんな名作を読むより、凡作でも自分が書いた方が面白いと説いたのが菊池寛の「作家凡庸論」である。その論を基点にして、読者側の満足感と執筆者側の満足感の基本的な相違を指摘したのが「何故文学は人生に役立つのか」(伊藤昭一・文芸同志会)であるが、それを書いて、なぜそうなるかを明らかにしておきながら、読者側に回る自分に思わず笑ってしまうところがある。
発行所=480-1147愛知県長久市市が洞1-303、渡辺方。「R&W」編集室。
 紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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