メタレベルに立てぬ現実 早稲田大学教授・石原千秋
高橋弘希「指の骨」(「新潮」11月号)が芥川賞の候補になった。10年に1度の傑作と言ってもいい。あの戦争を知らない若者がこれ程(ほど)までにリアリティーのある「戦争体験」を書けるとは。自分が参加している戦争の全体像も理解できず、リアリティーをも感じられない兵隊が、つまり世界に対してメタレベルに立てない兵隊が(そこに小説としてのリアリティーがある)、いとも簡単に「敵」を撃つ。これは私たち大衆の姿だ。この恐ろしさは、大岡昇平『野火』や『俘虜記』をスノッブな「戦争文学」に見せる。この小説の出現によって、『野火』や『俘虜記』の文学的使命は終わったとさえ思った。
これは、戦争を「偶然」自分の身に降りかかった不幸だとしか感じられないことを意味する。佐々木敦・渡部直己「脱構築vs複雑系-今日のフィクションを読む」(新潮)の対談で語られていることに通じる。
<メタレベルに立てぬ現実 早稲田大学教授・石原千秋(産経)〉
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コメント
私も以前書いたが、高橋弘希「指の骨」が芥川賞候補になっている。当然だろう。直木賞の実力である。
投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2015年1月 8日 (木) 16時05分