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2015年1月26日 (月)

2月「動機」はどこにでもある 早稲田大学教授・石原千秋

 小林秀雄の出世作「様々なる意匠」の執筆動機が〈借金を返すために懸賞金がほしかったから〉だったことは、近代文学史上の常識である。だからといって、この評論の文学的価値は1ミリとて下がりはしない。実生活上の「動機」だろうと文学上の「動機」だろうと、「動機」などどうでもいいことだ。「動機」だの「体験」だのを持ち出した選考委員は、「動機」は何かとか「経験」はあるのかとか聞いてまわるのだろうか。この選考委員は「否定」した理由をきちんと選評に書いてもらいたい。楽しみに待っている。
<産経・文芸時評2月号 「動機」はどこにでもある 早稲田大学教授・石原千秋> その小林秀雄が満洲で行った講演が「発見」されて、西田勝の懇切な解説とともに「すばる」に掲載されている。「歴史に就いて」という講演では、「歴史といふものは決して二度と繰り返すことがない」と言い切り、この自分の講演の「一回性」を「論理的に証明」するためには「僕といふ人間といふ厄介なものを先づ物質と見做す必要がある」と述べている。量子論に関心を持った小林秀雄らしい発想である。

 東浩紀へのインタビュー「批評を持続させるために」(同)は、自作解説か自己弁護を傲慢に語ったような趣で読後感はよくないが、終わり近くの「今の学者たちは、この国では文学や哲学や思想や、いや芸術でさえ、地味な布教からはじめないとそもそも存在し得ない、という残酷な条件がわかっていません」という発言には深く共感する。

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コメント

(◎´∀`)ノ
小林秀雄は批評家の神様みたいに言う者が多いが、肉声はいやらしいほどのキンキラ声で好きになれない声。

ま、気障な男の典型だったのだろう。しかし、文体は実にひねたもので、人を煙に巻く悪魔的な魅力があったことは確かだ。

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2015年1月27日 (火) 06時41分

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