文芸同人誌「アピ」第5号(茨城県笠間市)
本誌には東日本大震災で、福島県から笠間市に避難生活をしている人たちが参加している。詩作品「我が郷は荒野なり」の小澤英治氏(66)は、人も家も思い出もすべてを奪いその記憶は消えることがないーー詩。これを南相馬市鹿島区仮設住宅での生活中につくり、南相馬「みんなのコンサート曲」~心の内側~作詞:南相馬仮設住宅のみなさん、作曲ピアノ歌:赤松泰子)に収録されているという。福島県民の境遇は、次々と移ろいゆく出来事のなかに日々埋没してしまい、まるで普通のやむを得えない災害のごとく風化してゆく。これでよいのだろうか、と疑問を感じる。
【「桑の実の熟れる頃」さら みずえ】
敗戦後、兵役を解かれて帰郷した兵士は、村の少女に性欲を高ぶらせて襲ってしまうが、村長の娘ということ知って、我にかえる。さらにその兵士は死んだことになっていて、婚約者は兄の嫁になっている。話の基本は戦前から続いた農家の家族制度に縛られた人間の姿である。昔はよくある話だが、現代人とって、戦争が人間をどう変えてしまうものか、想像が出来ずにいるようだ。実際想像ののしようがないのであるが、過去のこのような話によって手がかりとしたいものだ。。
【「回想の北岳」宇高光男】
山岳登攀記録と思って読み始めたところ、小説でそれも相当長い。山好きな人のロマンと女性へのロマンを重ねて描いている。これも一つの趣向である、なかなか難しいところ根気よく挑戦している。小説書きより山のぼりの方が好きという風に読めた。
【「思い出すこと『霞町界隈編』」飛田俊介】
浅田次郎の小説に「霞町物語」というものがあるそうで、その当時作者が、赤坂・六本木界隈の「アマンド」洋菓子店に勤めていたという。当時は、溜池や赤坂の周辺には、レコード会社があって歌手や芸能人が多く姿を見せていた。赤坂のアマンドはだいぶ頑張っていたようだが、いつのまにか見なくなった。六本木にはまだ店があって、そこの店長に会ったという。とりとめのない話だが、文芸味がある。
【「『たんぽぽ』旅行会」田中修】
保母さんの育成専門学校の卒業生が配偶者をつれて恒例の旅行をしている。今回は北海道を旅行をレポートしている。レポートの書き方に、作者の社交的人柄がにじみでている。本誌の幅広い読者の支援を得る要因でもあろう。
発行所=309-1722茨木県笠間市平町1884-190、田中方。文学を愛する会。
紹介者「詩人回廊」発行人・伊藤昭一。
| 固定リンク
コメント