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2014年12月19日 (金)

同人誌「コブタン」№38(北海道)

【小説「野を翔る声」石塚邦夫】
 北海道ならではの風物を舞台に取り入れ、起承転結のしっかりしたロマン的小説である。馬、鳶、牛と牧場、女と男。主人公は絵描きさん。素材を揃えてうまくまとまっていて、北海道の雰囲気を濃厚に伝える。楽しく読めた。
【掌編「あだし野」笹原実保子】
 昔のことであるが、妻子を連れて東京で暮らしていた。そのはずの男が、戻ってきたらしく、メールをよこす。小説を書いたから読めということらいしい。変な男の存在をいぶかりながら語る作者の視線が面白い。
【紀行「兎角にこの世は住みにくい」沖郷村人】
 アイルランドの旅行記である。これが大変面白い。形式はともかく、自分の目指す散文小説のサンプルのようなものに感じた。まず作者が何を思い何かを考えているかが、表現されている。読者としての自分も、まさに描写の奥に寝ていない表現に気を逸らすことができない。文学や小説の舞台として、知っているようで知らないアイルランド人の生活ぶり。大変貴重な作品に思えた。このところ、出だしの数行を読んだだけでは、何が問題なのか、さっぱりわからない描写をまず読まされることに、ひどく疑問を感じる。これにはそれがない。まさに他者に読まれるための小説的な書き方である。
【小説「1945年8月15日」須貝光男】
 最近のテレビ番組を見ていると、「日本人のここがすごい」というテーマの番組が多い。おそらくベストセラー作家の委員さんやそのおお仲間が、そういう放送をしろと命じたのであろう。それに逆らわないのがすごい。自分でここがすごいと言わないと、それが証明できないということはすごくなんかないのだ。以前は「ここが変だよ日本人」という番組をやっていたのに…。本作の敗戦記を読むと「日本人がこんなにバカだった」ということが身にしみてわかる。話に出る金光明経の経典は、自分が座禅を修業している時に読まされ、いまだにこんなものもあるのだ、と感心した記憶がある。
 それより実際に世界が驚く日本人のすごさがある。国政選挙で、国民の半分しか投票しないというところだ。日本国民は莫迦なのか。現在の日本は、天国極楽の世界らしい。道元は言っている「生死はほとけの命なり」(人間の悩みがあるから仏がいる)。この国では神も仏も必要のないニヒリズムの国になったのか。
発行所=〒001-0911札幌市北区新琴似十一条7丁目2-8、須貝方。コブタン文学会
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

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コメント

「コブタン」38号の紹介ありがとうございます。ヽ(´▽`)/ ま、たまにロマン小説を・・・というわけでした。
須貝光夫さん、面白いものでしたね。happy01

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2014年12月21日 (日) 23時25分

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