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2014年10月12日 (日)

【エンタメ小説月評】(読売)胸に迫る「私たちの物語」

 津村記久子『エヴリシング・フロウズ』(文芸春秋)は中学校を舞台にするが、その世代を描く作品に多い、過剰な自意識をテーマにしない。メインとなるのは他者への視線、他者との関係性である。
 主人公は、いま一つさえない中3男子のヒロシ。物語の前半は、しょっちゅう腹を空すかせているヒロシの姿や、級友のヤザワとのしょうもない会話が絶妙で、何度も噴き出しそうになる。ところがやがて、イジメや家庭内の問題などが続々と顔を出して……。
 となれば、以降はすべて深刻な展開になりそうなものだが、そうならないところがすばらしい。ヒロシの腹の虫は相変わらず鳴るし、塾の宿題だって残っている。その合間を縫って仲間を助けるのだ。おっかなびっくり、でも、できる限りの力で。そうして子供たちは、自分の「身の丈」を伸ばしていく。誰かに信じてもらうことの難しさを知り、誰かを信じることの大切さを心に刻みながら。 【エンタメ小説月評】胸に迫る「私たちの物語」

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