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2014年9月 9日 (火)

創作同人誌「 R & W  」№ 16(2014)(愛知県)

 本誌は朝日カルチャーの「短篇小説を読む・書く」(藤田充伯講師)の教室から生まれたもの、とある。渡辺勝彦氏を筆頭に、創作的な工夫と社会的な問題意識のある作品が多い。たしか前号は紹介しなかったが、松岡博「煙のように消えた鬼頭先生」などは、とぼけた味があって今でも記憶に残る。発行に補助金が出るそうだが、そういう自治体が他にもどのくらいあるか興味が湧く。
【「闘争の行方」(二)吉岡千尋】
 三池炭鉱の労働争議の現場をモデルにしている。1960年代、第一組合と第二組合に分裂する労働者側と資本の戦いを描く。歴史の詳細にこだわらず、ざっと調べて描いたものようだ。それが短篇小説化という意味では、よい手法になっているのかも知れない。会社の事業が、すでに社会的な役割を終えて、経済活動が幕引きの断末魔の状況になると、整理屋の資本が動き、国会議員や暴力団などの有象無象が暗躍するところも指摘されている。組合を内部分裂させて、反体制勢力を弱体化させる手法の痕跡は現在まで続く。業界別御用組合化し、体制維持のためさらなる階級差別を生む状況の説明にもなっている。運動のリーダーの崎田が行方不明になったところで終わるが、それが大きな思想の喪失を意味するのかも知れない。
【評論「三浦哲郎論」藤田充伯】
 1961年 に『忍ぶ川』で第44回芥川賞を受賞し、当時は一種のブーム的なものがあった。
その作者の私小説の部分に焦点を当てたもので、三浦作品の背後にある農村の歴史的な血の繋がりの負の部分を取り上げている。私小説作家としてのひとつの精神構造パターンをわかりやすく解説している。
発行所=480―1147愛知県長久手市市が洞1-303、渡辺方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

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