『大江健三郎自選短篇』が、岩波文庫に
デビュー作の「奇妙な仕事」に始まり、中期や後期の作品など計23編を収めた『大江健三郎自選短篇』が、岩波文庫の一冊として出版された。(読売新聞14・09・20・文化部 待田晋哉記者)
大江さんは現在、79歳になる。東日本大震災と原発事故に揺れる日々の中で刻まれた長編『晩年様式集イン・レイト・スタイル』を昨秋に出版した後、「自分がどんな小説家で、どんな時代を表現したのか知りたくなった」と話す。家に保管する雑誌から自作の全短編をコピーし、読んだ。
「本を開いたとき、全体が明るく見えるように」句読点や段落を増やした。作品の根幹に関わる校正はない。ただ東大在学中の22歳の時、発表した「奇妙な仕事」では、ある変わった仕事に携わる「僕」「私大生」「女子学生」の3人のうちの1人の設定を、「私大生」から「院生」に直した。
今の生きた日本語を使うことにも、気を配った。「空の怪物アグイー」の冒頭は、<ぼくは自分の部屋に独りでいるとき、マンガ的だが黒い布で右眼にマスクをかけている>。以前の「海賊のように」の語を、「マンガ的だが」に入れ替えた。
戦時下の村を舞台にした芥川賞受賞作「飼育」や外国兵と日本人とのある関わりが、鮮烈な残像を残す「人間の羊」。初期短編は、戦争のにおいが色濃く漂う。
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