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2014年9月18日 (木)

文芸同人誌「札幌文学」第81号(札幌市)

【「遡上」高橋駘】
 これは、宙次という男の血族の消息を尋ねる巡礼の話であろう。まもなく40に届くという宙次。住まいと仕事が不安定な風来坊のような暮らしをしている。始まりは、腐れ縁で面倒を見てくれている女社長が知らせてくれた母親の死にかかわる電話。
 男はその知らせによって、祖父母、両親、兄弟と血筋をたぐって非日常的な旅をする。自分が双子の兄弟と思っていたら三つ子だったらしいことを知る。東京、札幌、広島。時と場所を早めぐりする文章運び。いかにも小説的な設定である。宙次の行く先々で出会う人間が、細部に工夫を凝らした色合いをもって現れる。強い文章力がなければ構築できない世界を展開する。細部が小説を作るというが、盛り込み過ぎかも。
 しかし、人間の業のようなものを刹那的にとらえる。強い文体がそれを可能にしている。話は、対抗意識とも反感ともいえぬ感情をもつアチャ、弟の朝彦を見つけ出して終わる。そこまで巡礼をした宙次の生活の変化は、面倒を見てくれていた腐れ縁の女社長に見限られたこと。その程度しかない。巡りめぐって「ここから先は、どうやって生きようか」である。不安定な風来坊に変わりはなさそうである。双六の振り出し。テーマは何なのか。それがわからないから、小説で追求したのか。この辺に、文章力による文学の傍流性を感をじる。しかし、これが傍流なら、文学の本流とは、何であるのか。その問題提起を孕む、読み応えのある作品ではある。
発行所=〒006-0034札幌市手稲区稲穂四条四丁目4-18。田中方。
紹介者「詩人回廊」北一郎。

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