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2014年9月28日 (日)

文芸同人誌「日曜作家」第7号(大阪府)

【「トライアングル」冬場煬子】
 家族の一時代の物語である。人間の存在感を、恋愛でもなく、職場でもでなく、家族構造のなかで描いている。視点を3人に分けて「ヤッチン」という精神に変調をきたす二男、「与志子」という母親、家の主婦。「さくら」という家の娘。
 ちょっと関係のわかりにくいところがあるが、少ない紙数で家族関係を厚みをもたせるには止むをえないであろう。それなりに通俗的に読み流すことを防いでいる。ある家庭の特有の色合をつくる人間像を描く。家族を支える経済環境が書かれているので、存在感を生んでいる。
 人間の家族構造の中心は、子供を産む母親であり、家を出て他者とつながり子供を産んで別の家族をつくる娘である。このことによって家族と家族の関係をつなげる。「さくら」の章で、その構造の中にある人間のエゴを表現している。浮き彫りにされるのは、父親と息子という男のエゴに対応する女性のエゴである。
 たまたま、現在テレビニュースでヒラリー・クリントンの孫が誕生したと、ニューヨークタイムスがトップで報道したことを伝えている。国のリーダー候補の家族構成が人々の関心を引き付けるのである。
 マルクス主義思想が、社会的階級対立で捉えた人間のエゴや欲望の根源。それを修正する意味で、人間性を家族関係などに置く心理構造に注目した思想が、構造主義といわれているようだ。文学のひとつの方向性もそこ属するものがあるような気がする。文芸評論もエゴの追求が終わり、エゴの変容ぶりに向かっていくのかも知れない。
〒567-0064大阪府茨木市上野町21番9号、大原方。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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