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2014年9月 4日 (木)

元気ですか? 誰にでもあった「28歳の頃」

 「第十九回文学フリマ」2014年11月24日(月祝)東京流通センターに文芸同志会の出店参加が決まりました。会では、多種類の出版物を用意しています。その案内を「文芸同志会のひろば」に掲載してゆきます。しばらくは、その案内を兼ねて外狩雅巳「28歳の頃」をテキストと照合して解説が読めるようにしていく予定です。「28歳の頃」は、作者の町工場勤務の経験をもとに、人生を有意義に生きたいと思いながら、それにふさわしい生活をしていなかった、という主人公の焦りの実情を描いてます。
 もし、この状況でアントニオ猪木に「元気ですか?」問われたら「ノー・ノー」というでしょう。作者は、批判的な視線を主人公に注ぎながら、同時に、そうせざるを得なかった社会的な境遇を説得力をもって描いています。懐古的に、それでも良かった、自分は青春を戦って生きたという自己満足を得ようとした姿勢が見えます。そこには、かつての恋人と過ごしたロマンとして人生をとらえる物語世界と、生活のリアリズムにおいて、孤独な個人としての無力で頼りない、自分の人生の意味を他人の評価にゆだねなければならない、人間社会との接点の問題提起があります。そこで、穂高健一氏のサイトでの公開を推薦しました。彼も、それに賛同したので、共同推薦となります。
 外狩作品のスタイルは、職場や社会の人間関係に本来の自分が歪められているという意識から、社会的な敗北する人間像を描くことで、共通しています。それが階級社会を仮想したり、コンプレックスを仮想した壁に突入し、弾き返される人物像になっています。これは個人の性格でなく、人間のもつ性質を人間像にしているのです。
 ニーチェ思想では、自分が毎日元気で生きているか、いないかを気にするひとと、日常生活をみんなと同じように過ごすことに満足するしている大衆とを分けています。後者を「畜群」とか翻訳するひともいます。牧場の羊や牛のことでしょうか。
 北一郎は、当初からそこに焦点を置いて、人はなぜ日常性に満足しないのか、人はなぜ壁に挑むのかを考えるものにしようとしたのですが、外狩氏は同人雑誌で書く仲間が興味を引くような語り方にして欲しいというので、その方向性を修正したものです。推敲が不十分でテニオワがおかしいですが、このような器用な方針転換がすぐすることができるのが北一郎の特性でしょう。ところで、いまあなたは「元気ですか?」また「元気でなくても良い」と考えますか。

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