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2014年8月31日 (日)

文芸時評9月「束ねない」感性 早稲田大学教授・石原千秋 

  芥川賞を受賞した柴崎友香『春の庭』(文芸春秋)の広告に「選考委員の絶賛をあびた、みずみずしい感覚」とあったからだ。僕はこの広告を見てゲンナリした。こういう手垢にまみれたフレーズで『春の庭』を「束ね」て売り出そうとする編集者だか営業部だかの感性の古くささにあきれたのだ。この小説にふさわしいフレーズを捻(ひね)り出すのが、『春の庭』に対する最低限のリスペクトだと思う。
 「束ねない」感性 早稲田大学教授・石原千秋(産経ニュース)

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2014年8月30日 (土)

文芸時評・東京新聞(8月28日夕)沼野充義氏

小野正嗣「九年前の祈り」悲しみにも折れず
マイケル・エメリック「~でございます」翻訳者は幽霊だ
≪対象作品≫
清野栄一「チュルノブイリⅡ」(「新潮」))/朝比奈あすか「ザビエルが欲しい」(「群像」))/小野正嗣「九年前の祈り」(同)/岩城けい「Masato」(「すばる」)/マイケル・エメリック「マイケル・エメリックでございます」(「早稲田文学」秋号)。

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2014年8月29日 (金)

村上春樹さん、英紙記者と対談

作家の村上春樹さんが23日、英国北部エディンバラで開催中のイベントに参加し、英紙記者との対談などを行った。兵庫県で育ち、東京で学生時代を過ごしたことに触れ、「東京に引っ越し、(関西弁から標準語に)話し言葉を変えた」と述べた。「これは非常に大きな変化だった。関西に住み続けていたら、小説を書くことはなかっただろう」と振り返り、環境の変化も作家になることに影響したことを示唆した。
村上春樹さん、作家になった理由尋ねられ…」(読売新聞2014年08月25日)

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2014年8月28日 (木)

文芸同人誌「海馬」第37号(芦屋市)

【「彼」山下定雄】
 この作品は「ある精神病日記」として、連載六回目のようだ。前の号から贈られてきているように思う。この作品は記憶にある。前号から、自転車を修理しする彼と鉄棒の話が延々と続く。前後のいきさつをしらないまま、世間話でも聞くように読んでしまう。腰の据わった同人誌作家のように思う。
 梶井基次郎は、プルーストの大長編「失われた時をもとめて」の翻訳を読んで、腰の据わった作家と称している。出版記念に向けて、次のように記している。
 「親近と拒絶」より。「プルウストの文章はプルウストの話し方が少し難かしい上に、今云つたインテイメイトな話し方で、大層譯すのに困難な長いセンテンスを持つてゐるやうだ。そこへまた今云つた聖人の名だとか、お菓子の名だとか、僕達がそれに相應した心像を持つてゐない名が二つ三つ行列してはひつて來るともう駄目で、到底一度では意味の通らない文章になつてしまふ。僕はこの誌上出版記念の會へ顏出しするために是非一と通りは讀んでしまひ度かつたのだが、文章のさういふところがかたまつて出て來るとついほかのことを考へてしまつて大層進みが惡かつた。また無理にこんな本を讀んでしまひ度くもないので、回想の甘美な氣持に堪へなくなつて來ると遠慮なく頁から眼を離し、かういふ人間のものを讀んでゐるとどこまで此方の素朴な經驗の世界が侵されてしまふかわからないと思ふとまた本を閉ぢてしまふのだ。」
 「彼」は、短編連作なので、そこまで負担はないが、とにかく文学活動の精神を感じるのだ。
 他の作家たちの作品もあるが、みな文章に落ち着きがあって、読んで安心ができるものばかり。ただ当方で、まとめて紹介できるような筆力がない。
編集事務局=〒659-0053芦屋市松浜町5-15-712、小坂方「海馬文学会」
 紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

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2014年8月26日 (火)

林真理子「マイストーリー」と我が体験=外狩雅巳

 朝日新聞朝刊の連載小説・林真理子「マイストーリー」が自費出版作品について書かれていて面白い。
 事業の成功談。子育ての苦労談。学問の成就への艱難苦闘談。人に語れる誇りのある内容が多い。
 成功者の資産を目当てに出版を勧める営業マンの内心が覗ける。それでも発表したい作者も多い。
 自分の出費で作品を発表するのは同人誌作家も同じである。作品量が増えたら自費出版する人も多い。
 読者を期待して世に出している。同人誌発表なら同人仲間の合評会で直接に読後感想を聞かせて貰える。
 同人誌に失敗談を深刻ぶって発表して勘違いされた私。北一郎はそこを見つめて分析している。
 企業内正論が納得できず馘首される人たちの姿を描いた作品の多くは「頑張りの効かない主人公のちゃらんぽらんな行き様」と読まれた。
 更に続けて、「何を書こうとしているのだ! 頭の中に明確な理念が無い」とダメ押しされてしまった。
 生き様についての前向きな理念が読み取れない作品ばかり書いてきた私。下層労働者としての生涯。小林多喜二作品のような階級的自覚を書き込めず、働く者の未来に展望をも目指せぬ作品ばかりです。
 反体制過激組織に共感しても運動から脱落する主人公。職場スポーツでも勝者になれない主人公。その姿を変革への期待に向けた、裏腹の自己批判として書いた。
 「弱虫の作品は嫌いだ。五味川純平の「人間の条件」に登場する梶のようなへこたれない態度こそ書くべきだ!」と初代の同人会会長に酷評された「相模文芸」発表作品「28歳の頃」。読み手との齟齬は多数あります。
 自費出版すれば同調してくれる読者に出会える、多数の販売で利益まで出るかもと期待しました。
 営業マンが言えばそれに縋ります。三百冊では少ないと乗せられて五百冊も自費出版しました。
 二百冊近くが売れたのでと三十万円程返金されたら二百万円の出費も忘れて喜びました。
 業者の掌で弄ばれる作者。林真理子新聞連載小説「「マイストーリー」はその業者の内面を描いていて面白く、苦く読んでいる。
 人生の壁で苦闘する作品を同感で読む北一郎は、我が作品の特性について、多くの底辺労働者へのメッセージと指摘している。
■関連情報:「外狩雅巳のひろば

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2014年8月23日 (土)

外狩雅巳氏の感受性と壁意識

 北一郎がもっぱら評論を書いているのが外狩雅巳作品についてである。これは彼が、ネットの素材をアナログの世界に展開することに文芸同志会が協力しているためである。《参照:外狩雅巳のひろば》これによると、なぜか現在の同人誌の現状から脱却しようという試みをしている。いわゆる現状を認めながら、現状変革への姿勢をとる。
 この変革を求める精神が、彼の作品のスタイルでもある。彼の作品の登場人物は、挫折と失敗を繰り返すことがほとんどである。組織の正義に敗れ、仕事も失敗する。そのために社会的に勝ちがない。同人誌作家のなかには、このようなスタイルを、社会人として、くだらない失敗をするばかな人間の話などを読んでも仕方がない、もっとましな人間を書いた方が良いと思っていて、北一郎はお世辞をいっているのだ、という論もあるそうだ。たしかに、同人誌の同人には、功成り名を遂げたひとが多いから、そう思われるのは仕方がない。感受性のすれ違いはよくあることだ。
 しかし、北一郎からすると、自分も挫折と失敗の連続ばかり、という自意識がある。外狩作品を読むと、「登場人物はお前のことだぞ」と作者が言ってるように受け取れる。なるほど、だから自分の人生に満足感や充足感がないのだな、と内心で納得できる。同時に現在の社会に充足感がないのは、実際は多くの人が作中人物のようなことをしているからなのではないか、という作者の批判精神の表れにもなっていると読めるのである。外狩スタイルには、何らかの壁の存在を感受する意識がある。その壁意識をさぐれば、どれでも評論できるということになる。無意識であろうとも、自意識こそが文芸の源泉であると思わざるを得ない。それは書き手と読み手の感受性の衝突と了解で成立する。

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2014年8月22日 (金)

濱地天松居士の「金剛経道」と夢幻泡影の現実

 かつて金剛般若経による座禅体験の縁をブログに書いたら、師の師である濱地八郎天松居士について、私の師であった林天朗居士の遺稿を天松居士のお孫さんの光男氏が発見したという。それを本にしたというので、先月親族の発刊記念パーティに招かれた。金剛経というお経は座禅の手本として一般的で、よくぞ自分のブログを見つけたものだと、驚いた。天松居士は、国士舘大学の理事などもされていたそうだ。《参照:「金剛経に一生を捧げた 濱地八郎天松居士」の周辺(1)》
 金剛経の要点は「我々が存在すると疑わない現実は、夢幻泡影のごとく、あるいは稲妻のようなものである。それはあると思えてない、ないと思えてある」というところにある。ハイデッガーが人間は「世界の内に存在」するという哲学と照応するところがあるように思える。
 同時に、言葉や文字の表現が、存在感をもって感じられるのはなぜか。私はアメリカに行ったことがないが、その国の存在を疑わない。これは人間関係のなかで、情報を得て、どうもあるらしい、と思わせられているからである。行ったことがないから、あるかどうかわからない、と主張したら変に思われるであろう。このように相互の了解をもって、そのことが本当かどうかが確認している。それは本当らしいという相互了解の作用である。
 小説におけるリアリズムは、本当らしいかどうか、であって、事実かどうかではない。体験記を忠実に書いても、夢幻泡影の現実であって、それは今はない。「過去心・不可得・現在心不可得・未来心不可得」である。
 

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2014年8月21日 (木)

文芸同人誌評「週刊読書人」(8月08日)白川正芳氏

吉田洋三「再び芸術論について」(「播火」91号)
季刊「船団」101号(代表 坪内稔典)
庄司真希「シャンプー、千円」(「麦笛」15号)、「宮古島文学」10号より市原正直「平良好児句集管見」、玉井五一「花田清輝頌」(「Q文学」5号)
渡辺厚子「吉本隆明の猫」(「竪琴」73号)、坂本紀美子「こころもよう」(「佐賀文学」31号)、岩瀬もと子「いえぼこりゅうじん」(「遍路宿」202号)、小南武郎「残照の海」(「札幌文学」81号)、内田征司「月に染まる町」(「詩と真実」781号)、田中青「次郎337日」(「飢餓祭」39集)
「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめより)

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2014年8月20日 (水)

「早稲田文学」が季刊で定期刊行

 文芸誌「早稲田文学」が、7日発行された2014年秋号から季刊化され、9年ぶりに定期刊行される。
  同誌は1891年、東京専門学校(早大の前身)で教えた坪内逍遥しょうようが創刊した。休刊や復刊を繰り返し、2005年5月号で定期刊行をやめた。07年に復刊準備号を出し、復刊後は不定期刊ながら川上未映子さんが登場、同誌の新人賞でデビューした黒田夏子さんが芥川賞を受賞した。筑摩書房に流通・販売を委託することが決まり、季刊化に踏み切った。
 市川さんは、「売れなければ扱わない。売れなければ、メディアミックスしない……。この10年で読者や出版社、ある意味では創作者も『商業化』が進んだ。異なる文学の文脈や地盤が必要だと思う」と、大学の支援も受ける文芸誌の意義を語る。
 秋号には、ノーベル賞作家、J・M・クッツェーの「イエスの幼子おさなご時代」など多くの翻訳作品や、新鋭の松田青子さんの小説を掲載。さらに、特集「新世代の幻想文学」も、純文学の伝統を持つ同誌としてはユニークだ。怪奇文学に詳しい東雅夫さんが参加した鼎談ていだんや、すばる文学賞を受賞した新人澤西祐典さんや歌人の雪舟えまさんらが挑んだ幻想的な作品などが並んだ。
 市川さんらは、第一線の文学者による編集委員制度の導入も計画している。(文化部 待田晋哉)「早稲田文学」季刊」(2014年08月18日 08時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun )

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2014年8月18日 (月)

デジタルから本へ=「魔導師は平凡を望む」シリーズ累計9万部

 フロンティアワークス同社第1事業部課長の辻政英氏は語る。
 かつてラノベを読んでいた30代、40代も、10代とは感覚の乖離が大きくなり、ラノベ棚から遠ざかる。そんな人たちが「本当はこういうものが読みたい」という想いから同世代向けにネットで小説を書き、それらが書籍化されて文芸棚に収まると「これが欲しかった」と購入する人が、意外なほど多かった。だから書店のネット小説コーナーは日に日に面積を増している。
 「うちの編集部員は皆『小説家になろう』(ネット小説投稿サイト)の作品が大好きで、『共感できるもの』『自分たちの感覚でわかるもの』をやっています。《新文化「フロンティアワークス 「文芸書」棚をねらいうち」》

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2014年8月16日 (土)

村上春樹-多崎つくるー英語版好調

  村上春樹さん(65)が昨年発表し、日本では100万部以上を売ったベストセラー長編「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の英訳版が12日、英米で発売された。長年、ノーベル文学賞の候補として名前が挙がるだけに、欧米でも高い人気を誇り、熱狂的なファンが開店前の書店に長い列を作った。もともと米国文学に多大な影響を受けた村上さんだが、欧米メディアは、現実と虚構の世界をふわふわ往来し、挑戦的かつ独自の視点を持った唯一無二の存在感が人気の秘密-と分析している。(SANKEI EXPRESS)「多崎つくる 熱狂 欧米ファンへ巡礼 英語版発売 独自の世界描き存在感」(2014.8.14 )

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2014年8月15日 (金)

文芸同人誌を読んで戦争を考える

 文壇小説と対比する視線で、文芸同人誌を読み作品紹介を開始したのが2001年。たくさんの同人誌が到着しますが、読み切れません。五感の衰退もあり、そろそろ隠居もやむを得ない状況です。WIN8.1も疲れて根気をつかい果たす感じ。「」(MIO)4号では島田昌寛「東京大空襲被災記」が、その凄惨さを記録しているのを読みました。また。荻野央氏が「関東文芸交流会」サイトで批評されています。詩では田村淳裕「三月の朝の雨の」もいいですね。毎朝が「死にふちどられた一日のはじまり」という詩です。「北狄」(青森)367号では、青柳隼人「眠る湖」で、戦争を素材にしてロマンのある小説にしています。これまで読んできた同人誌の傾向を参考に「詩人回廊」に「文学フリマ物語消費」を書いています。
 最終的には、欧州の経済大国のドイツが、戦争の贖罪に日本の400倍の資金を費やし、いまも謝罪の碑を建設している現状がいつまで続くのか。日本の贖罪意識と聖戦意識のもつれなど、相対的な比較の視点までいけば良いと思います。いまは考えることに意義を見出す情況かなと思えます。自分の文はテニオワがおかしいが、意味は通じるような気でいます。テレビで国会中継をみていると、安倍首相のいうことは、テニオワは合っていますが、意味がわからない。集団的自衛権の行使で、米軍が日本人を海外国際紛争で、救出しようとしたときに、それを支援するとか、米国は国法で米国人以外は助けないとなっていて、そんなことしたことがない。石油が輸入できなくなった国民の危機で中東で戦争をするとか、それはどういう意味か。文法があっていれば意味がわからないでもいいとするのが言葉の世界のようです。

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2014年8月14日 (木)

「さくさく」第59号・「文学市場」のいま =外狩雅巳

 文芸同人誌 「さくさく」第59号の編集後記(坂本和子)には、次のようなことが記されている。――(前略)声はストレートに響きますが、文字になった言葉はなかなか伝わりません。
 それなのになぜ文字に刻み、言葉を表すのでしょうか。それは、文字によってしか伝わらないものがあるからです。文字によってしか伝わらないもの、それはあなたが今書こうとしているその文章です。――
 小説17編、随筆5編、評論等3編。304頁に詰め込まれた作品群は圧巻です。
  たとえば小説の戸田哲也「コスモス」は、 幼いころから好きだった女友達の事を書いた作品。彼女の夫に剣道を個人指導された私。
 その美恵子が突然亡くなる。祭壇に飾られた遺影と湖をみた私は夫が沈めたと確信する。愛する妻を湖底に沈めた夫への疑惑。ミステリーを残した余韻に感心しました。
 「さくさく」誌は、年三回刊の活発な活動を行なう文芸同人会「文学市場」の会員は創作意欲が盛んである。(発行所=東京都台東区三筋1-4-1-703 「文学市場
 その上息の長い連載をする人もいる。読書感想と映画紹介の二つを30回以上続ける例もある。
 池袋勤労福祉会館を例会拠点に東京で活動する地の利も有ろう。若者も多い会である。
 坂本代表が(旧新日本文学学校)文芸学校講師なので受講生からの入会も有るのだろう。
 三十年前に私は池袋で「慧の会」と言う同人会を行っていた。その時以来の交際である。
 私が相模原市に転居「慧の会」会員の半数は「文学市場」に移り活動している。
■関連情報《外狩雅巳のひろば

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2014年8月10日 (日)

文芸同人誌「群系」第33号(東京)

【小説「会長ファイル・福祉バス」小野友貴枝】
 社団法人・地域福祉センター長である英田真希の一年間の行動が描かれている。県庁を定年後に就任して二年目の正月の神社参拝時の決意から翌年の参拝前日まで。
 行政の地域高齢者施策を請け負うセンター12名を管理し運営を先導する主人公。事業の大半を占める福祉バス運行を廃止する決意と実践の記録的作品である。
 澤事務局長である大曾根班長の二人を説得しセンター再生へ前向きに行動する女性。組織のトップで行動する女性から男社会・行政内部を書いた事にわたしは注目した。
 お役所仕事で絡められた事なかれ主義男性幹部達とのやり取りは迫力がある。25枚程度に纏め、行動進捗を時系列で追う記録風な仕立てが読みやすい。
 その中に女性視点と内面描写を入れて文芸作品とした著者異色の一作になっている。多分、多くの読者に小説としてより行政施策の内部仕組みに興味が持たれるであろう。
 となると、税金使途に厳しい読者からは別の感想も出る可能性がありそうだ。作者に近い主人公を思わせる書きぶりはそのあたりの事に鈍感とも感じた。
 重圧をはねのけ行動する女性を描写する意図が題材に阻まれる危険がある。老人ホームでの虐待などの記事も多い昨今、文学作品として読まれるだろうか? 
「群系」発行編集部=江東区大島7-28-1-1336 永野悟方、「群系の会」
紹介者=「詩人回廊」外狩雅巳
              ☆
別記=雑誌「群系」は、300頁余りに詰め込まれた作品作家論・自由論考で評論同人誌の重鎮誌。その中で小野友貴枝氏は少数派の小説作品として気を吐いている作者は多くの著書を持っている。文芸交流会(町田市)の会員としても活動し、繊細な女性心理や恋愛模様を書かせたら多くの読者を堪能させる筆力がある。その筆力が書かせたこの作品。どう読まれるのだろうか。参照《外狩雅巳のひろば

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2014年8月 9日 (土)

「法政文芸」10号の文学・学士さんの小説技法に学ぼう

同人誌ではないので、暮らしのノート「文芸と思想」に「法政文芸」10号に読む卒業論文としての作品」として掲載した。国文学部の卒業生だから文学科専門家の学士さんの作品である。そのため、どれも書き出しから作者の姿勢が、鮮明に出ている。
木村悠里子「マリカ」は、「一時間ほどの告別式は、飾られた遺影を眺めていたらいつのまにか終わっていた」
 それで、誰が亡くなって、それがどうしたの?と読む気がする。
寺山めぐみ「笑い風呂」は、風呂場で姉を飼っていたことがある。おれが十二歳、姉が十四歳の時の話だ」
 飛んでる話だな、王城舞太郎(それとも舞城王太郎か)もどきか、と興味を引く。
 ゼミの掌編セレクションというのがあって、毎号才気を感じさせるものが多い。
 深谷ちひろ「羽のないよだか」は、「--よだかは実にみにくい鳥です。(1行あけて)因果な名前を付けられたと思う。私ではない彼女のことだ。」(田中和夫ゼミ、「暁」誌より転載)。
 データーベースの厚さを使いまわすのがうまい。人物の性格が個性と普遍性を併せ持たせている。美意識の特性を浮き彫りにして、なるほど、これありだね、と含蓄に富んでいて面白い。
 松田涼「つながる」は「泡立ったハミガキ粉で口の中がいっぱいになる感覚が好きだ。多分この感覚は他のものでは代用できない。唯一無二のものだと思う。」(中沢けいゼミ、「十六夜」より転載)
 何を言い出すのかと思って読みだすと、この粘膜生理的感覚から宇宙感覚を呼び起こし、女性の肉体と精神の宇宙性を描く。いまの大学生ってすごい成熟度なのだ。これはだれが読んでも面白いであろうと思う。

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2014年8月 8日 (金)

著者メッセージ: 翔田寛さん 『探偵工女 富岡製糸場の密室』

 私たちは、古いものや大きなものに、強い感銘を受ける傾向にあると思いませんか。奈良の大仏や京都の南大門などは、両方の特徴を備えていて、常に旅行客で賑わっていますし、近年では、東京にスカイツリーという超高層の塔が出現して、大きな話題となりました。
 でも、最近のトピックは何といっても、世界遺産に登録された富岡製糸場でしょう。敷地面積は51,596㎡というのですから、東京ドームの46,755㎡を軽く凌ぐ規模です。そのうえ、高さ14,8m、幅12,3m、長さ104,4mの赤煉瓦造りの置繭所とよばれる巨大倉庫二棟をはじめとして、明治期の製糸関連の施設群がいまも残されており、それらが北海道の五稜郭の降伏で幕を閉じた戊辰戦争の終結から、わずか三年後の明治五年に開業したことを知れば、
 驚きは倍加することでしょう。
 私の新著『探偵工女 富岡製糸場の密室』は、その開業草創期の富岡製糸場で展開されるミステリー小説です。製糸場内の密室で発見された美しい工女の惨殺遺体。その謎の解明に乗り出す探偵役もまた、尾高勇という十四歳の工女です。さあ、読者の皆さんも、尾高勇と一緒に富岡製糸場の中を駆け廻り、事件を解明してみてください。(翔田寛))(講談社『BOOK倶楽部メール』 2014年8月1日号より)

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2014年8月 7日 (木)

文芸同人誌「みなせ」第63号(秦野市)

【「山のつむじ風―神サマ常次郎(1)」小柏正弘】
 自由民権運動の広まりの中で起きた群馬事件(明治17年)を記録風に書き起こしている。今回は初回で百枚。著者の縁者なのか小柏常次郎と言う騒乱の首謀者が主人公である。ドキュメントタッチで臨場感のある風物・人物の描写も多用。調査も豊富に活用している。ノンフィクションとジャンルを明確化する作者はやはり主人公の縁者だと推測できる。明治維新が政変か革命かを問う論評や作品は多いが当時の農民の視点で書かれている。群衆個々に名指しで生活と行動を書き連ねる手法は引き込込まれた。
 草の根の思想と行動は明治初期の日本の実態を浮き上がらせ成功している。フランス革命等の西欧事情がどう日本で浸透し展開したかが分かり力作と感じさせる。
【「オブジェクション143」岡森利幸】ニュース紹介と解説風の評論である。筆者は、これまで毎号距離を置いて書いていたが、今回は少し踏み込んで、八編の事件を紹介している。その一つ、都議会での女性議員への野次については大いに持論を展開している。「女が腐れば男がすたる」の一文で論を閉じている。
発行所=事務局・編集--神奈川県秦野市南ヶ丘5-3-16、岡森利幸方「みなせ文芸の会」
紹介者=「詩人回廊」外狩雅巳
          ☆
 別記=文芸同人誌「みなせ」は季刊。今号は、17作品が236頁に盛り沢山。1ページ400円という破格の掲載費で運営を続ける事も盛会の一つの要素だろう。丹沢山塊の麓の渋沢駅前での合評懇親会に毎度誘いが来ている。参加費三千円。ホームページも持ち若者の参加も多い。私の古い文芸仲間がいて注目している。パソコンからの寄稿が主だが手書き原稿も集めている。高齢者にも手厚い会である。安価な発行はパソコン活用だろうが十万円台の費用で仕上げるのは苦労もあろう。《参照:外狩雅巳のひろば

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2014年8月 6日 (水)

「ライターズ・ハイ」願う 作家・桐野夏生さん

「ライターズ・ハイ」願う 作家

 『顔に降りかかる雨』という作品でデビューしたのが、九三年。かれこれ二十年以上も小説家をやっていることになる。
 私がデビューした頃は、新人に雑誌連載の仕事などは来なかった。年に一、二作のペースで小説雑誌に短編を書かせてもらい、四、五年かけて一冊の本になるのを待つか、一年や二年という時間をかけて、書き下ろし長編を書いたものである。ちなみに、デビュー後の五作は書き下ろしだった。
 連載は締切が設定されているし、担当編集者から連絡もあるから、そう寂しくはない。が、書き下ろしは一人きりの地道な作業だ。場合によっては、一人で資料を探し、取材にも行かねばならない。
 私の場合は、毎朝、仕事場に行ってパソコンを立ち上げ、前日に書いた文章を推敲すいこうすることから始まった。推敲だけで終わる日もあれば、やたらと筆が進む日もある。昼は持参のサンドイッチを食べて、また作業に戻る。ふと気付くと夕暮れ時。パソコンの電源を落として家に帰る。家で夕食を食べて風呂に入り、翌日の構想を練る。
 そんな日々を送っていると、作品世界に没頭してしまって、常にぼんやりと夢見心地になる。ライターズ・ハイとはよく言ったもので、作家としては幸福な状態だった。
 ただし、孤独との闘いは辛つらい。他の作家がいい仕事をしたり、注目を浴びたりするのを横目で見ながら、マイペースで仕事を続けるのはなかなか難しいのだ。
 最近の私は、連載ばかりで頭がとっちらかって困る。また、あのライターズ・ハイを味わいたいと密ひそかに願っているのだが。


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2014年8月 5日 (火)

著者メッセージ: 下村敦史さん 『闇に香る嘘』

 5回の最終候補の末、本年、第60回江戸川乱歩賞を受賞した下村敦史です。受賞作『闇に香る嘘』は、小説でしか描きえない物語に挑戦したミステリー です。
 主人公は69歳の全盲の視覚障害者です。長年実兄だと信じていた兄が偽残留 孤児ではないか、との疑念を抱き、真実を暴くために孤独な調査を開始しま す。すると周辺で次々と不穏な出来事が起こりはじめます。彼は永遠の闇の 中で自分自身の記憶すら信じられなくなり、虚実の狭間で苦悩するのです。
 伏線に気を配り、人間を描くことを心掛けて書き上げた作品です。視覚的な 描写が使えない難しい物語に挑戦したことが奏功し、選考委員の先生方から 高い評価をいただいて受賞することができました。目の見えない主人公が 抱える不安感や恐怖心を少しでも体験していただければ幸いです。8月5日発売の『闇に香る嘘』をどうぞよろしくお願いします。(下村敦史)(講談社『BOOK倶楽部メール』 2014年8月1日号より)

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2014年8月 4日 (月)

文芸同人誌「仙台文学」第84号(仙台市)

 本誌は、同人17人中12人が仙台市在住の宮城県を代表する文芸同人誌である。小説三篇・詩七編・随想四編が98頁に納められている。
 編集後記にはこう記されている。「当誌が創刊五十年を迎えたことは前号に記したが、宮城県芸術協会も創刊五十周年を迎えている。(中略)会員六十数名による宮城県詩人会がある。当誌同人も七名が加入していて、今年十周年を迎えた(以下略)」
【「偽装自殺をした男」牛島富実二】70枚の作品を興味深く読んだ。戊辰戦争時の仙台藩における内情を書いている。軍の総指揮官である松本要人を主人公にした歴史小説。東北の各藩が同盟して明治政府軍と戦った歴史を仙台藩から見た作品である。
  藩の降伏後は身代りによる偽装自殺で生き延びた史実が小説風に作られている。主人公や妻の人間味ある描写についつい引き寄せられて読み入ってしまった。
発行所=仙台市泉区向陽台4-3-20、牛島富美二「仙台文学の会」
紹介者=「詩人回廊」外狩雅巳
            ☆
 別記=「仙台文学」誌は四年前から届き始めた。「文学街」集会に出席し仙台文学同人の一人と懇意になった。文学街文庫に寄稿した事が全国交流の始まりである。牛島代表は私の父親の東北学院教師時代の元同僚と知り親密感も深まった。
 前記のように宮城県の文芸・芸術の連絡網の中枢を務める活躍ぶりである。東北大震災の後遺症が続く中で最大の中心都市仙台からの発信は意義があると思う。(文芸交流会事務局・外狩雅巳

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2014年8月 3日 (日)

第十九回文学フリマの出店参加受付け開始

 第十九回文学フリマ(東京流通センター )出店参加の申し込みの受付が開始された。
申込締め切り= 8月24日(日)23時59分《参照:第十九回文学フリマ 開催概要》 開催日:2014年11月24日(月祝)。 開催時間:11:00~17:00。 会場:東京流通センター 第二展示場(E・Fホール)。 アクセス:東京モノレール「流通センター駅」徒歩1分。 募集サークル数:約 650 ブース。 出店参加費:1ブース5,000円(追加イス希望の場合+500円)。 ※1サークルにつき最大2ブースまで取得可能。その場合、参加費は2ブース分 (+追加イス分)必要。
 なお、文学フリマでは、ネットサイト投稿の「第3回なろうコン」(小説家になろう)の協力イベントになった。エリュシオンライトノベルコンテスト(なろうコン)は、小説投稿サイト「小説家になろう」の中にある才能を世の中に広く発信すべく、ジャンル・人気に関係なく、作品のメディア化をおこなうコンテスト。
 また、文学フリマに出品されたインパクトのある作品を一言(100字~140字)で紹介する公式ガイドブックの発行を企画推進している。

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2014年8月 2日 (土)

西日本文学展望 「西日本新聞」7月31日朝刊長野秀樹氏

題「69年目の夏」
立石富生さん「じいじ、海へ」(「火山地帯」178号、鹿児島県鹿屋市)、西村敏通さん「私の中に潜む夏」(「飃」96号、山口県宇部市)
渡邊眞美さん「砂粒が北斗七星を笑いました」(「龍舌蘭」187号、宮崎市)、いいだすすむさん「少年Sの居場所」(「飃」)
後藤みな子さん「高円寺へ」第5回は「すとろんぼり」(福岡県久留米市)から移り、「イリプス」13号(奈良県香芝市)に発表。
「文芸同人誌案内」掲示板・ひわきさんまとめより)

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2014年8月 1日 (金)

ラノベ系小説から出版へー注目されるサイト

  不特定多数を対象にするネット小説サイトでは、ヒナプロジェクトが運営するネット小説の投稿プラットフォーム「小説家になろう」(以下「なろう」)掲載の作品を書籍化するレーベルが続々誕生している。文庫や四六判ソフトカバーで刊行されているこのジャンルは、ほとんどがファンタジー小説だが、ノベルスや文芸のハードカバーの棚を奪い、書店での存在感を増している。ネット小説書籍化の先駆者である出版社「アルファポリス」は、12年3月決算で売上げが約10億円、14年では20億5000万円と2年で倍増している。
文学フリマ公式サイトに広告を張っている「ノベルジム」などが今後の展開をねらっていそう。

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