« 早稲田大学教授・石原千秋 責任と無責任のあいだ!7月号 | トップページ | 文芸同人誌「海」第二期第12号(大宰府市) »

2014年7月 7日 (月)

文芸同人誌「季刊遠近」53号(川崎市)

【「雪の春」難波田節子】
 滅多にない大雪に見舞われた町のある一家。年配の主婦の「私」の視点で行きつけの店や、独立した子どもたちなどの家族関係の話が進む。
柱となるのは、雪である。小説における季節は、内容への味付けの強化になっていることが多い。雪は風景としては美しく、スキーなど遊び心を誘うが、農家などは生活に打撃を与える。ここでは、町の突然の大雪が、じわじわと不吉な様相をもって市民を襲う。主人公の母親は、大人になっても甘えのある息子の頼みで、急病になった孫のために大雪を押して、駆け付けようとする。息子への無償の愛を与える彼女に、大雪はどんな運命を与えるのか。
 主人公には、大雪にからむ出来事で良い記憶がない。自らの体験もそうだが、まず長女と長男の問題が語られる。目立つのは、主人公の夫婦の長女の姉より弟、長男への愛情の傾斜である。日本の家長制度の名残りかも知れない。長女の小学校入学の祝いに家族で山中湖畔に行く。そこで大雪に見舞われる。その時、弟の長男が雪遊びに夢中になり、手足が凍る。父親は息子が凍傷になるのではないかと、恐れて必死で手当をする。旅行の主人公であるはずの肝心の姉の娘に気配りできない。父親に冷たくされたと感じた娘は、もの思いにふける。作者がそれを的確に描くので、家族関係の構造を見事にあぶりだしている。ここで長女は、自らの存在の立場を弟との関係で察知する。自分がそのままの自分であるだけでは、父親からの存在承認は得られないことを知るのである。母親は、娘がその後、社会的に独立していくのを見ている。娘は肉親関係の無条件な愛を求めることに深追いをしなくなり、社会で何かを成し遂げること、行動によって社会的な存在承認を得る方向に向かったことを示す。
 たしか、作者はクリスチャンであったように記憶する。かつては古代ヨーロッパを舞台にした作品も書いていた。それが近年は家族の構造に興味を示しているようだ。ニーチェは、キリスト教やマルクス主義思想を、弱者や貧者の恨み(ルサンチマン)であると説いた。そうした思想に押されるように、人間社会の根幹は経済や階級、原罪の追求ではなく、家族というような構造をもつところにあるという思想が生まれた。それがまたポスト構造主義に変化している。この話をすると、長くなるし、同人誌に書く人などには、そのような話はつまらない、といわれるので止めるが、この作品にはスタインペックの「エデンの東」に読むような親子関係の要素が組み込まれている。日本の家族においては、カインとアベルの構造は、どのように変化しているのか、作者の筆力に期待したい。
発行所=〒215―0003川崎市麻生区高石5-3-3、永井方。
紹介者「詩人回廊」伊藤昭一

|

« 早稲田大学教授・石原千秋 責任と無責任のあいだ!7月号 | トップページ | 文芸同人誌「海」第二期第12号(大宰府市) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 早稲田大学教授・石原千秋 責任と無責任のあいだ!7月号 | トップページ | 文芸同人誌「海」第二期第12号(大宰府市) »