文芸同人誌「奏」第28号2014夏(静岡市)
本誌の目次は次のようになっている。創作「西行の日」小森新/詩「Knowledge in Chmistry-AnEpic -For the world`s Greatest chemist chemist Erasmus」Masahiko ABE/「遠藤周作『地の鹽』『コウリッジ館』論」勝呂奏/小説は芸術たり得るか「谷崎潤一郎『■(旧字の食にあたるらしき部首とつくりが堯)太郎』『から異端者の悲しみ』へ」中村ともえ/ぷらていあ「小川国夫『逸民』推敲考」勝呂奏/「堀辰雄旧洋書の調査(五)-コクト③ー」戸塚学/講演録「完全版『人間の運命』の完結を見て」勝呂奏。
【「遠藤周作『地の鹽』『コウリッジ館』論」勝呂奏】
遠藤周作の芥川賞受賞後の表題2作品が、作者のパリ留学時代の体験からどのような背景で書かれたかを解説する。2作品には遠藤がフランス留学した時に体験した、人種差別意識の現実を背景にしているのだという。評論によると遠藤自身の評論「有色人種と白色人種」(昭和31・9月『群像』に、留学前の日本で<人間本質の普遍性は白人であろうが黒人であろうが変わりないという原則をもっていた>と書くように、それが信じられていた。これは通常の人間の観念としての共通意識であろう。しかし、フランスで体験した遠藤周作の体験は、観念が実際の渦中に巻き込まれたことの現実として、切実感が異なっていたようだ。そして自分自身も差別意識の当事者としての視点から、その問題を作品化し、その細部を検証している。
遠藤周作の「沈黙」を読んでいるが、テーマにまぎれがなく、すっきりと整理された作品との印象をうけた。この評論を読むと、それ以前にこの2作品の存在があったわけである。「沈黙」は完成度が高く、出来すぎ感がある。おそらく、経験を積んだ作法慣れとでもいうものが漂う。しかしその前に、感受性の鋭いこの純文学作品が存在していたことがわかる。
【ぷらていあ「小川国夫『逸民』推敲稿」勝呂奏】
小川国夫の推敲の過程をよく検証している。たまたま「季刊文科」62号に<なつかしい作家たち第2回>徳島高義「小川国夫『彼の故郷』のころ」が掲載されている。ここに勝呂氏の著作「評伝 小川国夫 生きられる“文士”」(勉誠出版)からの引用がある。
発行所=〒420-0881静岡市葵区北安東1‐9‐12。
紹介者「詩人回廊」北一郎
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