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2014年6月13日 (金)

大陸的なおおらかさも備えた横山悠太さん「輩ハ猫ニナル」

 北京在住の日本人留学生、横山悠太さん(32)による今年の群像新人文学賞受賞作「吾輩ハ猫ニナル」は、この時代を象徴している。上海に住む<わたくし>が、「日本語を学ぶ中国人を読者に想定した小説」の執筆を思い立ち、書いた形を取る作品だ。
 主人公は、日本人の父と中国人の母の間に生まれた「混血ダブル」の若者。5歳のとき日本から中国へ引っ越し、蘇州の大学へ進学が決まったばかりだ。彼が公園で「先生」と呼ぶ猫と出会い、それが機縁となるかのように日本へ一人旅し、秋葉原へ向かう顛末てんまつを描く。
 <日語という語言げんごは実に怪体けつたいである。●語(中国語)にしても英語にしても法フランス語にしても阿拉伯アラビア語にしても皆、字種は単一である。何が愉たのしくて三つも有るのか解せない>
 作中にこんな男の独白があった。本作の魅力は、日本語と中国語が交じった文体にある。両言語が漢字を使うゆえに覚える文体の違和と親近感は、日本人でも中国人でもある主人公に対して、読者が抱く気持ちと重なる。夏目漱石の諸作品の人物のような自分探しに熱心で、大陸的なおおらかさも兼ね備えた彼を、気づけば好きになっている。
読売新聞文芸時評「日中語、混合文体の妙

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