文芸月評(読売新聞6月25日)杭となる文学の表象…世代超え広がる波紋
松浦寿輝さん(60)の『明治の表象空間』(新潮社)。「新潮」で2006年から5年ほど続いた連載をまとめた著作は、本文だけで700ページを超す。《本文【文芸月評】杭となる文学の表象…世代超え広がる波紋(2014年06月25日) 》
湯本香樹実さん(54)の短編「弟の部屋で」(新潮)は、交通事故で意識不明になった弟の部屋を姉が訪ねる。植物の濃い匂い、鮮やかな青のベッドカバー、夢とも現実ともつかない弟の声……。
山下澄人さん(48)の「ルンタ」(群像)は、一緒に2年間暮らした女に去られた男の心の風景をつづるようだ。
青来有一さん(55)の「悲しみと無のあいだ」(文学界)は、生前には詳しく聞けなかった父の被爆体験を息子が想像などで補い、書き留める。 北野道夫さん(30)の「305」(すばる)は、取り壊しの決まった高層団地とそこで野良猫のように遊んで育った3人の男女のイメージを核に、自分でも制御できない性、愛、死の衝動を荒れ狂わせた。
昨年8月号から計12回の連載が完結した瀬戸内寂聴さん(92)の私小説「死に支度」(群像)には、老年の真率な響きがある。91歳を目前にした作家は、身辺の負担を軽くするため、20代の女性一人だけを残し、ベテランのスタッフが仕事場から退くことになった。(文化部 待田晋哉)(2014年06月25日 Copyright © The Yomiuri Shimbun)
| 固定リンク
コメント