エンタメ小説月評(読売新聞)感想化した批評
(文化部 川村律文記者)朝倉かすみ『てらさふ』(文芸春秋)。北海道・小樽の外れに住む2人の中学生がひねり出した“仕事”は、文学だ。表舞台に立つニコと小説を作る弥子は、「堂上にこる」という筆名で芥川賞を目指す。クラシック界のゴーストライター問題をスクープした週刊誌を出し、芥川賞・直木賞を実質的に運営する出版社からの、小説の代作をめぐる作品――。話題性もさることながら、文芸誌から候補が出る芥川賞を「感想文より倍率低いじゃない?」と言い切り、新聞の文芸時評は「感想(ていうか批評?)」と切り捨てる、向こう見ずな少女らしい言葉が並ぶ。
想起したのは、1979年に同じ版元が出した筒井康隆『大いなる助走』だ。文壇や同人誌などを痛烈に諷刺ふうししたあの話題作と異なり、『てらさふ』では文壇など影も形もなく、小説は“手段”に過ぎないのだ。こんな時代だから、著者には「堂上にこる」の名で小説を書いて、文芸の世界にさらなる刺激を与えてもらいたい。掲載はもちろん「文学界」でどうでしょう?
エンタメ小説月評「どこか」へ向かう少女たち(読売新聞2014年5月22日)
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