同人誌「文芸中部」第95号(東海市)
【「今度の日曜日に」堀井清】
会話を括弧にせずに、シナリオのように表現しながら、運びの巧い文体で、読みやすい。まるで大人向けのライトノベルのようだ。家庭の出来事を会話の形で描くのだが、同居していても、会話があってもそのつながりは危うい。独居していた主人公の父親は、ちょっと訪問に間をあけていたら、死んでいるのがみつかる。死ぬ時にそばにだれもいないと孤独死という。文体は軽やかであるが、親子、夫婦の関係の在り方、死生感と、中味は重い。ライトノベルにも重いテーマがある。独自の文体の習熟を生かして、意欲的な表現法で、技術がそれに伴っている。なるほどこのような書き方もあるかと、興味深く読んだ。
【「神島行き」佐藤和恵】
三島由紀夫の「潮騒」の舞台となった神島を散策した話で、短歌をはさみながら、観光をする。三島はすでに文学的な象徴になっていることを感じさせる。楽しめる散文である。
~~潮騒に神風混じるこの島にMISIMAの濡れた足取りを追う~~(いいね)
~まろやかな石の鼻づら唐獅子は初枝と新治の恋を嗅ぎとる~~(いいね)
~~灯台へ監的哨へと通ゐし青年MISHIMAの海の肉体~~(いいね)
「潮騒」は、ギリシャ人作家ロンゴスの「ダフニスとクロエ」の日本版。それより先にフランスでコレットがブルターニュを舞台に「青い麦」を書いている。文学散歩のなかで、作者が二度神島にきていると書いている。見事に日本流に作り上げた特別な意気込みが感じられるのは、やはり熱を入れていたのだな、とわかったりする。短歌も文学性の香りがして良いが、終わりも方も洒落ていて楽しい。
発行所=愛知県東海市加木屋町泡池11‐318、三田村方。文芸中部の会。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一
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