文芸同人誌 「檣( マスト)」第33号(大阪市)
【「カンナの恋・続編」眉山葉子】
雑誌の名前は忘れても、個性のある書き手は記憶に残るもので、「カンナの恋」という小説は強い印象があって、その続きがあるのか、と思い読んだ。中年女性のカンナの恋心と気分が闊達な筆運びで、表現され退屈させることがない。理屈を超えた心の華やぎで読者を楽しませる。
【「歳月はその輪郭を……」西野小枝子】
かつて恋人だった男を奪われた主人公の諒子が、策略をもってその男の妻となった奈津と再会する。諒子の恨み心どうしてそうなったかの説明と、その過程がみっちり描かれる。じつは男は奈津と結婚してから間もなく亡くなる。奈津はほかにも同様のことをしていたらしく、今は後悔している。諒子に300万円の慰謝料を払って、その後をボランティアで活動をしているのを諒子は見る。こうあらすじを書くと、なるほどと思うが、作者はなんでもてんこ盛りで、奉仕精神などのテーマ性のある問題意識を複数盛り込むので、読んでいる最中はどうなるのやら見当もつかない思いがした。
【「老いの日々」山脇真紀】
93歳になるは母親が亡くなるまで、実の娘が介護し大往生を遂げるまでを描く。この作品には短い章ごとに小見出しがついている。中味の伝えたいという気持ちが良く出ている。味わいの深いものになっている。
私自身、所属の同人誌に寄稿することになり、埋め草で過去の作品を加筆してみたが、どうもただの事務的な文章で文学性がない。ただ、それには現在でも読んでほしい社会的な意見が反映されているので、内容ごとに小見出しを入れることにした。編集者は、経済記事みたいですね、といったが、それで通してもらったばかり。同じ工夫をしているという意味で、この作品が一番印象に残った。
発行所=〒547-0015大阪市平野区長吉長原西4-7-24、西野方。マストの会。
紹介者「詩人回廊」北一郎。
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