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2014年2月11日 (火)

文芸同人誌「海」(第二期)第11号(太宰府市)

【「ある男の軌跡」牧草泉】
 無職でいた男がひょんなことから、町で若い女と知り合い同居する。女は男が働かないことを気にせず、競馬場通いをするためのお小遣いまでくれて過ごさせる。しかし、男がその生活に飽いて、仕事を探し、職に就く。すると、女は彼のとろから去ってどこかに行ってしまう。その後、また偶然にその女と出うことになる。ここでの内容の芯が、人間存在における支配欲なので、男も女もKという競馬場の男も固有名詞を使用しない。目的に沿った手法で、文学的センスの良さが光る納得のいくスタイルである。
【「船底」高岡啓次郎】
 造船工という職種があるのかどうか知らないが、その労働現場の様子が詳しく描かれている。労働者文学の一種で、かつての平和に対する理想主義が色あせ、共に仕事をした経営者たちも年老いて、亡くなってゆく。造船業界を描いて、滅びゆくことの無常感を感じさせる。高岡氏は雑誌「文芸思潮」で「凍裂」というドラマチックな小説で特別賞を受賞している。自分は授賞式を見学させてもらった。70歳を過ぎて、書くことにはまた特別な決意と想いがあるようだ。
【「渓流の眠りのなかへ」有森信二】
 自分と同じ双子のような、しかし会ったことがない男と街中で出会う。このような設定だと二重人格をテーマにするいものが多いが、ここでは自己存在の不定感、不可解さを感じるような物語になっている。組織のなかの歯車化されている状況に対し、幽体離脱などの現象表現を用いて、抵抗姿勢を感じさせる物語であった。風変わりな作風で、意欲を感じさせるが、二重人物という設定は、エドガー・アラン・ポーをてはじめにドストエフスキーほか多くの作品があり、現代にそれを使って作品化するには、よほどの工夫が必要に思うが、それなりに新味が出ているように感じたが、何となく物足りなさもある。もっと長くしてつなぎを充実させれば雑誌「群像」の賞の選者が好みそうな作風になるかも知れない。
〒818-0101太宰府観世音寺1―15-33、松本方。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

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コメント

海の3つの作品を御紹介いただき、感謝申し上げます。私も、御紹介いただいた内容のとおりだと思っております。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。

投稿: 有森 | 2014年2月11日 (火) 13時04分

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