第150回芥川賞選評、川上弘美さん(産経新聞)
第150回芥川賞は小山田浩子さん(30)の「穴」に決まった。選考委員の作家、川上弘美さん(55)が選考経緯などについて話した。
「(選考に)例年より時間がかかりました。残ったのが、岩城けいさんの『さようなら、オレンジ』、それから小山田浩子さんの『穴』、山下澄人さんの『コルバトントリ』でした。この3作にはそれぞれ強く推す選考委員がいまして、2回目の投票を行い、最終的に小山田さんの『穴』が過半数を取ったんですが、『さようなら、オレンジ』と『コルバトントリ』も過半数に迫る点数を取ったということで、今回は非常に実りのある作品を選考できた喜びがありました」
--小山田さんの作品が評価されたポイントは
「『違和感』があり、リアルな設定でありながら、幻想味がありました。それが幻想のための幻想ではなく、それを自然に書いている筆力が評価されました。それに皮膚感覚が非常にあって、嫁としゅうとめ、地方の…自分が知らない小さな社会に入った違和感を、普遍的に描いている作品ではないか、ということで評価されました」
--山下さんと岩城さんの作品については
「今までの作品に比べて、内容と表現形式が合っている、そしてこの表現形式でなければ、表せないであろうものが表現できているという評価がされた一方で、そのことを評価できないという声もありました。それで○と×が両方つきました」
「岩城さんの作品も、推す委員は『言語をいかに獲得していくか』ということの切実さと、逆に獲得していくことで失われるものがきちんと描けていて、感動があった。それに物語としても面白い、と。反対する選考委員はそれらの意見を認めつつ、アフリカ人のサリマ(登場人物の一人)をもっと深く描かなければ、物語として説得力を持たせることができないのではないかと指摘しました」
--いとうせいこうさんと松波太郎さんの作品について
第150回芥川賞選評、川上弘美さん「リアルに裏打ちされた幻想」 (産経14・01・16付け)
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