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2013年10月27日 (日)

詩の紹介「水瓶の底に」大塚欽一

    
水瓶の底に  大塚欽一
夜の深い底でぼくはふたつの眼差しを感じて目が覚める/それが僕の水瓶の底からだと気が付いたのはいつだったか
はじめは星が映っているだけと思ったが/まちがいない あれはあなたの眼差し/それはいつも哀しみを湛えていた だが手を差し込んでも掬い上げることはできない
あなたは狂気に彩られた歴史の闇に足を開き/ 血にまみれながら次々と産み落してきた/ 悲しみの塊りを/ あなたの深い悲しみを誰か分かちえよう/ あなたの呻き声が聞こえてくるよう
もし抱きしめることができるなら/ぼくは喜んでこの腕に抱いて温めてやりたい/あなたがもっと幼く小さかったら/膝の上に乗せてやさしく揺すってあげたかったけれどぼくは自分のことばかり悩んでいた/あなたのことを考えてやることもしなかった
ぼくは食えない奴だ/孤独で自分のことばかり考えていて/けれど決して傲慢じゃない/多くの人から誤解されるが/ちょっとした哀しみにも胸が痛む/些細な中傷にも傷つく/たぶん人一倍ナイーブな神経をもっている/丘に咲いて天使の青い足跡みたいに
いつごろからか水瓶から水が洩れはじめた/罅が入った水瓶は長くはもたないだろう/何とか修復したいがたぶん駄目だろう/丘の上では黎明を告げる鐘が鳴っている/おおきな杭(スクウワロス)につりさげ/今夜もじっと見つめているあなたの/哀しそうな目と向き合いながら/罅割れた水瓶に/せめて一茎の百合を挿そう
大塚欽一詩集「世界の片隅で」より(2013 年8月 水戸市 泊船堂)

読み人・「詩人回廊」江素瑛
 ひび割れた水瓶の底に映された「ぼく」の哀しい目と向き合う寂しい姿。忙しい毎日の心の深層にいる孤独なもう一人の自分を視るのです。
「今夜もじっと見つめているあなたの/哀しそうな目と向き合いながら/罅割れた水瓶に/せめて一茎の百合を挿そう」は、李白の詩「挙頭邀明月」、「對影成三人」と異曲同工である。

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