瀬戸内寂聴(91)小説をうんと読んで、情緒を養って
〈「生きることは愛すること」。高校生から寄せられた質問に答えた問答集のタイトルには強いメッセージと願いがある〉
だれも好きにならないで、だれにも好かれないで、一生を終わるなんていうのは、つまらないじゃありませんか。「いったい、なんのために生きてきたの?」と思いますよ。傷ついてもいいから、誰かを好きになって、誰かに愛された経験がある方が、ずっと生きがいがある気がします。やっぱり、小説をうんと読んで、情緒を養って、「何が愛か」ということを真剣に考えてくれたらいいと思います。
〈「ぱーぷる」というペンネームでケータイ小説を書いて話題に。インターネットにも早くから注目し、現在、電子書籍化した著書は9冊を数える〉
私は何でも早すぎるんですね。もっと早く電子書籍が売れると思っていたんですが、2年くらい世間の方が遅れた感じ。この流れはもう仕方のないことで、必ず電子書籍の時代がきます。長い歴史をみれば、印刷技術だってどんどん変わってきたでしょう? 源氏物語の時代なんて、作品を一つ一つ、墨で写していたんですから。でも、今は電子書籍の源氏物語だって出ている。変わるんです、世の中は。
〈最近は短編にも凝っている〉
いわゆる掌(たなごころ)小説です。とても楽しんで書いているんですよ。少し書くと、(原稿用紙で)30枚くらいにはすぐなってしまうんですが、削って削って、短くする。それがとても楽しい。それでもまだ7枚か8枚くらいで、そこからさらに3枚半くらいにまで削る。…どんどん削って、そうしたら思わぬ最後の一節が出てきたりする。これはもう、小説家の最後の道楽だと思います。
〈「群像」8月号で新連載の私小説「死に支度」がスタートした。今春、長年支えてきてくれたスタッフが身を引き、若手に代替わり。大きく変化した自らの身辺をつづる。今も時折徹夜するというエネルギーはどこからくるのか〉
何がそうさせているのか、自分でもよくわかりません。僧侶としての仕事は義務ですが、書くことは道楽。疲れてもこんな楽しいことはありません。≪作家・瀬戸内寂聴(91)(5)書くことは最大の道楽≫
(産経ニュース2013.8.30 [話の肖像画]より)
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