デジタル化と本の市場= ユーザー無料で、広告「前期の売上げは1億円越え」
ネット小説の投稿・閲覧プラットフォームを運営する㈱ヒナプロジェクト。「小説家になろう」サイトは、日次で2000万PV、ユニークユーザー80万人を誇る。作家登録者は30万人を超える。「なろう」を運営するのは代表の梅崎祐輔氏が学生だった2004年にサービスを開始、09年に法人化を果たした。
10年、同サイトに掲載されていた佐島勤「魔法科高校の劣等生」がアスキー・メディアワークスの電撃文庫から刊行され、爆発的なヒット作になってから。とくれば、ユーザーはライトノベルの読者や作家志望と重なっているかと思いきや「高校生や大学生の利用者は多いですが、作家登録者が書ける日記ページでは、既存のライトノベルの話をしているのをあまり見かけません」という。
ネット小説独自の生態系のなかで日々、膨大な作品が書かれ、読まれている。投稿・閲覧プラットフォームで、重要なのは運営力。たとえば、作品を“自由に”投稿できると言っても、2次創作をはじめとする権利問題、わいせつ表現に関する法規などは無視できない。それらへの対応を、ユーザーとの信頼関係を崩さぬよう迅速に行っていく必要がある。「ネットサービスの提供経験の蓄積がモノを言う世界ですから」、後発の参入者に対する脅威は感じていない。
同社の収益源は、ほとんどが広告収入。「サイトのユーザーに課金するつもりはありません」。「なろう」はスマートフォン、フィーチャーフォン、PCいずれにも対応し、すべての機能が無料で利用できる。「営利を優先するのではなく、半分ボランティアだと思ってやっています」と冗談めかす。徹底したユーザー志向を。それこそが莫大なアクセス数を生み、その副産物としての広告収入を生んだ。10年以降、右肩上がりの成長を達成しており、「前期の売上げは1億円を越えています」。
コンテンツビジネスと言えば、作品を有料で販売し、ユーザーへの課金で収益をあげるモデルを出版社の人間は考えがちだが、同社の発想はまったく異なる。「投稿作品の紙での書籍化は、我われにとってはメディアミックス先のひとつという認識ですね。ネット上のサービスを展開している会社ですから、版元になるつもりはありません」。「新文化」2013年5月16日号掲載.
資料 【新文化」2013年2月21日号(飯田一史・ライター)】
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