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2013年7月26日 (金)

文芸同人誌「弦」第93号(名古屋市)

【「来たり人」木戸順子】
 主人公の女性は56歳、都会暮らしから鹿森村に草木染めをしたくて転居してくる。旦那の退職金で購入した住まいだが、夫はすでに他界し、一人暮らしである。村では、他所者扱いだが、それなりに近所の趣味の合う住民と交流をする。ちょっとしたことが、気になり、場合によれば何事が起きるかも知れないという緊張感と村暮らしの日々が、静かな文章運びで綴られていく。
 ここでは、小説として自分のスタイルを構築しつつあるという印象の書き方で、安定した筆運びである。ただ、主人公と交際する男性や、女性友達のそれぞれのキャラクターの線が薄い。それが意図的なのか、作品全体のトーンを統一させるためのものか、曖昧な段階のように思える。雰囲気小説としては、面白い物語性を排除して成功している。ベダンチックな芸術性へ向かう一里塚か。
(なお、根保さんのコメントいただき、ありがとうございます。修正しました。どうもご指摘のとおり、「石榴」の木戸順子さんと同姓異名でした。別人ですね。私は勘違いし、てっきり作風を変えたものだと思い、器用な方だと思っていました。木戸博子さんの「石榴」第14号は、別途紹介します。)
【エッセイ「大学にて(2)セクハラ」喜村俶彦】
 各地から同人誌の贈呈を受けるが、最近一番印象に残ったのがこのエッセイである。エッセイではあるが、末尾に(本稿は、いずれも事実を大胆にカムフラージュしてあり、限りなくフィクションに近いものであることをお断りしておきます)とある。つまり、エッセイ風フィクションだということだ。大学の学部長をしている筆者が、セクハラ行為をした講師がいるという噂のあることを知る。そのうちに、地元新聞が大きくそれを取り上げ、全国紙の地方版にも取り上げられて、取材攻勢を受けることになる。結局、筆者は学部長を退任したあとに形式的な懲戒をうける。
 象牙の塔のパワハラ、セクハラ問題は珍しいことではない。このエッセイが、文芸作品としての品質を問題にするなら、書き方が具体的なようで曖昧模糊としているので、取り上げられることはないであろう。ところが、ここは作品を紹介するところである。品質の問題はそれほど大きな比重を持たない。それにしても、おそらく書いた人は、紹介されることをそれほど望まないであろうな、と私は考えた。それではなぜ書くのか、というところに同人誌サークル活動特有の特質があるように思う。ひとつは少人数の仲間にだけ、という気持ち。さらに自からが書くことで、この問題への気持ち整理してみたくなったのかも知れない。皮肉なことに、この文章には職場環境に対する自意識の緊張感が強くにじみ出ている。この作者の自意識緊張感こそ文芸の品質向上の素因があるように思うのだが……。
発行所=〒463-0013名古屋市守山区小幡中3-4-27、中村方。「弦の会」
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

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コメント

いやあ、伊藤さん、私も最初は広島と名古屋の木戸順子さんのこと伊藤さんと同じで同一人物かとしばらくの間思ってました。あるとき住所を見まして、<ありゃ、別人かと気付いた次第でした・・。(≧m≦)

確か、もうお一人木戸順子さんがいるはずです・・。どこか忘れましたが、いずれも水準作お書きになる方です。
同人雑誌には同姓同名の方、けっこう居まして、時に悩むことありますよ・・

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2013年7月27日 (土) 09時46分

木戸順子さん、広島の方と名古屋の方は確か同姓同名で別の作者だったと思いますが・・?私の思い過ごしでしたでしょうか?

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2013年7月26日 (金) 22時30分

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