文芸同人誌「相模文芸」第26号(相模原市)
本誌は相模原市を拠点とする地域の文芸愛好家による同人誌である。これこそ「民芸文学」であろう。地域の文化的な施設やショップに置いてあるようだ。たしかに、相模湖の行楽スポットの土産物店に、この雑誌が置いてあっても、ごく自然に感じるであろう体裁である。おそらく、合評会を行っても、作品の芸術性よりもサークル活動の充実性を重んじるはずである。風土にあった民芸作品が多く掲載されている雑誌に思える。
ところが実際は、あまりそういう地域性こだわった作品はほとんどない。自由に純粋な文芸活動の成果が盛り込まれている。全体的には、相模の文人たちという感じである。
【「原稿用紙にかけた夢」登芳久】
作家の原稿用紙にまつわる話を、豊臣秀吉の時代から現代までを股にかけて引用、事例を挙げて解説している。事例と引用があって、それが大変文学的で、その調査力には、驚かされる。現在の原稿用紙に近いものができたのは頼山陽が考案したもので、古いものでは、藤原貞幹が「好古日録」を作成するときに使用したもので、20×20の木版刷り。静嘉堂文庫に現存するという。また、与謝野晶子の「乱れ髪」の誤植にも触れている。さらにここでは、森敦「月山」の下書き302枚の事や、最近では田中慎也エッセイ集「これからもそうだ」(西日本新聞社)で「読書が教養として定着していた時代は高度成長とともに終わったのだから、筆一本で生きてゆくのは非常に厳しい」と記していることが書いてある。
【「水の上」五十嵐ユキ子】
あの世とこの世の境目を題材した話。口語文体が活き活きとしていて、退屈しない。
【「ピラミッドの謎探求―何でも探偵団第1弾」竹内魚乱】
何かと思ったら、エジプトの旅行記をガイド本がわりに探索記にしたらしい。一工夫というところか。
【「“粋”なお話」出井勇】
有名人の裏話で、へえ、へえ、と感心するばかり。芸能記者をしていたのだろうか。事情に詳しい。普段のメディアは、芸能ニュースが欠かせない。それを入れないと、視聴率が取れないからだ。そういう意味で、一般読者にはこの作品が一番魅力があるような気がする。
【「血を売る」外狩雅巳】
ネット「詩人回廊」で発表したものを、加筆してエッセイにしたもの。「詩人回廊」では、詩的な飛躍があった。今はない売血という歴史的な出来事が象徴的に感じさせるものがある。本誌では、それを判り易く説明を加えエッセイ調を強めたものになっている。時代の移り変わりと叙情的な味をつけた貧困ばなしに移行しているようだ。
【「大泉黒石著『オランダ産』の中の『ジャン・セニウス派の僧』をめぐって(一)」中村浩巳】
大泉黒石という人が、太平洋戦争について、偽装反戦論を唱えたらしい。どこの国でも国民をかっとさせないと、戦争をしようとしない。しかし、一度その気になった空気のなかで、反戦を主張したら国賊扱いされる。とめるのはむずかしい。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一
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