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2013年7月 1日 (月)

文芸同人誌「奏」2013夏

【書評「勝呂奏著『評伝小川国夫―生きられる“文士”』阿部公彦】
 表題の書(勉誠出版)は、著者であり、本誌の編集者でもある勝呂奏氏が、2013年度静岡県文化奨励賞を受賞している。紀伊国屋のHPからの許諾済み転載である≪参照:書評空間≫ 東京新聞でも、芹沢光治良の研究会のメンバーとして、活動が紹介された。また(産経ニュース20013年5月29日)では、下記のような記事になっている。
 『小川作品を掘り起こす動きは盛んだ。昨年10月にはデビュー前の未発表短編を集めた『俺たちが十九の時』(新潮社)と、桜美林大学教授の勝呂奏(すぐろ・すすむ)さん(57)による『評伝 小川国夫 生きられる“文士”』(勉誠出版)が刊行された。季刊誌「アナホリッシュ国文学」(響文社東京分室)でも、未発表で未完だった小説「無題」が連載されている。戦時中に学徒動員された自身の体験が投影された原稿用紙190枚の中編で、編集長の牧野十寸穂(ますほ)さん(70)は「死が心に張り付いた少年の震えとざわめきを、声高な戦争批判ではなく、透明感のある乾いた調子でつづる。未完とは思えないほど完成度は高い」と話す。9月発売予定の第4号で連載は終了するが、単行本化に向けた話も進む。
 小川さんは同人誌「青銅時代」を創刊し、昭和32年に小説『アポロンの島』を自費出版。作家、島尾敏雄(1917~86年)に新聞紙上で激賞されて本格デビューを果たしたのは37歳のときだった。自宅の資料整理を依頼され、一連の未発表原稿を見つけた勝呂さんは「文壇に認知されるのが遅い分、発表のあてがなく書かれた草稿は多い。未発表作品がさらに出る可能性はある」と話す。』
 本誌でこれまで、もし短編小説が掲載されていなかったら、文体研究書としての紹介であったかも知れない。私は、それほど小川国夫の作品を読んでいるわけではないが、小川作品の文体の特徴を知ることができた。私にとっては高度過ぎる内容だが、文体に興味のある人にはお勧めである。私自身はかつてコピーライターをしていた時期に、いかに判りにくい言葉を避けるか、という視点やその時代の文章リズムを吸収するという作業に関心があり、別の意味で文体には関心が強かったのである。
【掌編二つ「ペッサァ遺文」「She has gone……」小森新】
 この2編は、故・小川国夫の文体を模したという但し書きがある。見事と言うか、ここまで文体がトレースできるということは、作者名はペンネームであろうと、思うしかない。「ペッサァ遺文」は、聖書を題材とした宗教的な古事を語る。文体は「アポロンの島」の系統で、視線が地上と天との中間点というか、一定の時間的な距離感をとって安定している。神を意識した宗教的な色彩もつ。
「She has gone……」の方は、地上人である男の愛の揺らぎを独白体で語る。詳しい知識はないが、小川国夫の後期を意識したのかも知れない。
 その他、今号には芹沢光治良に関するものや小川国夫の資料原稿「ノルウェーの旅」など貴重なものがある。
発行所=〒静岡市葵区北安東1-9-12、勝呂片、
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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コメント

「作家の模倣は文体から」
昔から言われたことである。ヽ(´▽`)/
第三の新人たちの世代までの修行は、目標にする作家の作品を筆記して身体で覚えることから始まっている。

目標とする作家の文章の持って行き方、リズム、描写の癖、形容詞、動詞の使い方、場面切り替えの起承転結など、模写によって身体で会得する。そういう方法である。
一例を挙げると、川端康夫という作家は、川端康成の小説世界をこの方法でマスターし師である康成以上の世界を切り開くことができた。そんなものである。

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2013年7月 1日 (月) 23時47分

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